ニュージーランドでは、家の購入に弁護士が必要なのか?

初めてのマイホーム購入や投資物件の購入など、不動産売買に関するご相談が増えています。

「不動産屋さんがすべてやってくれるのでは? なぜ弁護士が必要なの?」と思われるかもしれません。

ここでは、ニュージーランドにおける不動産取引の流れと、弁護士が果たす重要な役割についてご説明します。

 

不動産屋さんの立ち位置と弁護士の立ち位置


家を購入する際には、内覧や物件・大家さんの情報収集、条件や価格の交渉などを不動産屋さんと行います。

ニュージーランドでは、不動産会社は「売り手側」の立場であり、買い手側をサポートするのは「買い手側の弁護士」です。

特に、契約後のプロセスにおいては弁護士の関与が不可欠です。


例えば、長年賃貸で住んでいた家を旧知の大家から直接購入する場合、

不動産会社を通さずに価格交渉や契約を進めることはできますが、

契約後は買い手と売り手の双方が弁護士を立てて手続きを進める必要があります。

 

不動産売買における弁護士の役割とは


不動産売買において、弁護士が担う役目は大きく言うと3つあります。

条件の交渉役、購入金の中継役、そして不動産登記の管理役です。


1. 契約条件の交渉役


弁護士は、契約内容の条件が完全に満たされたかどうかを確認するなど、Settlement日まで、相手弁護士とともに物件引き渡しの及び決済のお膳立てを行います。

例えば、ビルディングレポート(建物調査)の後、買い手側が気になる不具合部分があった場合、弁護士を通して交渉を行います。


2. 購入金の中継役


 家の売買には大きなお金が動きますので、

「買い手はSettlement日に必ずお金を振り込む。キャンセルしない」または「売り手はお金を受け取ったら、所有権を移す」という双方の弁護士間の誓約の元、

双方の弁護士を通してお金の受け渡しを行います。

具体的には、買い手は自分の弁護士のトラスト口座*に、購入金を振り込むことになります(トラスト口座はお客様の資金を一時的に預かるための口座です)。

 

3. 不動産登記の管理役


 不動産登記の変更(所有権の移転など)は、

政府の土地管理機関(LINZ)に登録された弁護士またはConveyancerのみが行えます。

Settlement(引き渡し日)前に準備を整え、当日には双方の弁護士が登記変更の手続きを実施します。

上記以外に、買い手の弁護士は、物件のLIMレポートやBuilding Reportのチェックも行います。

 

不動産売買契約書のチェックポイント


契約書は通常20ページ程度ありますが、全てを読むことが基本です。

特に注意すべきは、売り手と買い手の条件が記載されている箇所(1ページ目と17ページ目)です。

条件は双方の意向により異なるため、しっかり確認してください。

また、契約書には弁護士の情報(名前や連絡先)も記載する必要があります。

サインする前に弁護士を決めておくと、プロセスがスムーズです。

 

気になる弁護士への依頼費用


弁護士費用について不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。

依頼内容によって費用が異なりますが、弊社では一般的な自宅購入の場合、以下の定額で提供しています


【自宅購入の際のサービス費用(GST抜きの価格)】(2024年7月現在):


  – アパートメント以外の場合: 1,800ドル
  – アパートメントの場合: 2,050ドル
  – LINZ使用料: 約200ドル
  – モーゲージありの場合: 300ドル
  – Kiwisaver利用の場合: おひとり250ドル


これらの費用には、不動産売買契約書、LIMレポート、ビルディングレポートに関する弊社での確認・説明が含まれます(入手料は含まれていません)。

ただし、欠陥の発覚などにより相手との交渉が長引く場合などは、追加料金が発生する場合がありますので、ご了承ください。


家を購入しようと決めた際には、弊社にご相談ください。

不動産売買契約書の内容や、オファーを出す際に注意すべき点などについて、詳細にご説明させていただきます。


初めてのマイホーム購入、家の売却や買い替え、投資物件の売買についてのご相談は、メールでお願いします。  contact@rosebanklaw.co.nz

ニュージーランドの遺言書にまつわるQ&A

ニュージーランドの遺言書に関して、よくいただく質問にお答えいたします。

 

Q1:遺言書は自分で作れますか?

 

A1:遺言書をご自身で作ることは可能です。

遺言書は、そのものだけでは財産を動かすことはできず、遺言書を執行する際に高等裁判所の認可が必要となります。

裁判所から認可を得るためには、遺言書の法律が定める正式な形式を満たしていなけれななりません。

例えば、ご自身で作った後、成人二人の証人の同席による署名が必要で、

その署名証人は相続人であってはいけません。

 

 

Q2:遺言書が無い場合、困ることはありますか?

 

A2:遺言書を残さずに亡くなった場合は、高等裁判所に遺産管理人の申請(Letters of Administration)をすることになります。

この申請が認可されると、相続権利のある人が遺産管理人となり、銀行預金の引き出しなどを行うことができます。

ただし、この手続きは、遺言書の作成よりも手間・時間と費用が掛かります

 

 

Q3:遺言書はどんな時に作るべきですか? 

 

A3:ニュージーランドでは、遺言書は高齢や病気になってからではなく、家を購入した時や結婚した時に作成することも一般的です。

不測の事態に備えて作っておくとよいでしょう。

 

 

 

Q4:遺言書に有効期限はありますか?

 

A4:遺言書に有効期限はありません。

ただし、「最新版が有効」というルールがあります。

10年前に作った遺言書があったとしても、その後書き直しや改めて遺言書を作った時には、

10年前の遺言書は無効となります。

 

 

Q5:遺言書は誰がどのように保管すればよいですか? もしなくしたら、どうなりますか?

 

A5:遺言書の原本は、ご本人や遺言書執行人、弁護士などによって、なくさないように保管されるものです。

必ずコピーをとり、別の人が保管するとよいでしょう。

もし、原本をなくした場合は、裁判所への手続きが必要となってくるかと思われます。

 

 

Q6:遺言書は、夫婦一緒に作るべきですか?

 

A6:夫婦と言えども、別々の遺言書しか作れません。

仮に中身が同じ(Mirror Image)だとしてもです。

ちなみにこれは日本でも同じです。

弊社で遺言書作成をお受けする際は、

お一人ずつお話を伺い、内容に夫婦で異なる希望があったとしても、そのまま反映させてお作りします。

 

 

Q7:日本にもニュージーランドにも財産がある場合、それぞれの国で遺言書を作るべきですか?

 

A7:世界の全財産を1つの遺言書にまとめることも、それぞれの国で作ることも可能です。

日本で作った日本語の遺言書の場合、

ニュージーランドの遺産を動かすには、ニュージーランドの高等裁判所の承認が必要です。

その承認を得るためには、遺言書の翻訳だけでは足りないことがあり、手続きにやや手間がかかります。

一方、それぞれの国で作る場合は、

他国の財産に関しては一切触れない内容にすると、それぞれの国での遺言書の執行はスムーズにいくでしょう。

 

 

Q8:遺言書の中身を考えるとき、どんなことに注意したらよいですか?

 

A8:遺言書は、ある程度の年数に耐えれる書類であるべきです。

したがって今自分に子供がいない場合でも「遺言者が亡くなった時点で生存している子供に残す」と書いたり、

子供が亡くなっている場合に備えて、「孫に残す」と言及するのもよいでしょう。

個人的な理由で「この子供には残さない」と明記する人もいました。

ご自身の意思を落とし込むことができます。

 

Q9:ニュージーランドの相続には、相続税はかからないのですか?

 

A9:ニュージーランドでは、相続税も贈与税(2011年に廃止)もかかりません。

ただし、相続人が日本在住の場合、日本の相続税が課されるかどうかはご確認ください。

 

 

Q10:亡くなった家族が遺言書を残したかどうかがわかりません。どうしたらよいですか?

 

A10:ニュージーランドで遺言書を残したかどうかを見つけるには、

弁護士間の掲示板にて「誰か遺言書の作成に携わった弁護士がいるかどうか」を呼びかける方法があります。

遺言書は存在しないと判断した場合は、

無遺言書として、高等裁判所に遺産管理人の申請(Letters of Administration)をするのが一般的です。

 

 

ローズバンク法律事務所では、遺言書の作成遺言書の執行申請無遺言書の場合の遺産管理人の申請(Letters of Administration)を承ります。

contact@rosebanklaw.co.nz まで、メールにてご相談ください。

高齢社会において大事な委任状 Enduring Power of Attorney (EPA)とは

Enduring Power of Attorney

ニュージーランドの高齢化社会では欠かせない法律的文書『Enduring Power of Attorney (EPA)』をご存知でしょうか?

 

EPAとは、

高齢によって判断能力が著しく低下した場合、

法律上の手続きを行う権限を他者に与える「永続的委任状」のことです。

 

 

Enduring Power of Attorney (EPA)ができること

 

永続的委任状(Enduring Power of Attorney 以下EPA)を作成することは、

あなたが自分自身のことを決定する能力を失った場合(認知症など)に、

信頼できる誰かに、あなたのために法的な決定をゆだねることができる方法です。

 

権限を与えるあなた(高齢者)は"ドナー"と呼ばれ、

ドナーが権限を与える相手(委任される人)は "代理人"と呼ばれます。

 

EPAには『介護と福祉のEPA』『財産のEPA』の2つのタイプがあります。

 

『介護と福祉のEPA』では、

代理人は、ドナーがどこに住むか、誰がドナーの面倒を見るか、どのような治療がドナーに必要かといった問題について決定することができます。

ただし、ドナーが「精神能力を喪失した」場合のみ有効です。

 

『財産のEPA』では、

代理人はドナーの金銭や財産に関する決定をすることができます。

特定の事項や財産に限定することも、全般的な権限とすることもできます。

ドナーが「精神能力を喪失した」後に限らず、ドナーの選択によってEPAを作成した直後から代理人は権限の実行を行うことが可能です。

 

上記で述べた「精神的能力を欠いている」とは、

どのように判断されるのでしょうか? 

『介護と福祉のEPA』では、ドナーが介護や福祉に関する意思決定ができず、理解もできない状態です。

『財産のEPA』では、ドナーが自分のお金や財産を完全に管理する能力がない状態を言います。

判断が難しい場合には、資格のある医療従事者のプロフェッショナル・アセスメントをもって判断されることになります。

 

どんな人が代理人になる?

 

『介護と福祉のEPA 』では代理人は一人、

『財産のEPA』については複数の代理人を立てることができます。

 

多くの場合、ドナーは20歳以上の家族(通常ドナーの息子や娘)や親しい友人などの信頼できる人を選んでいます。

家族の中にその候補者がいない場合は、

受託会社(Trustee Companies)を『財産のEPA』に関する代理人とすることができます。

しかし、受託会社を『介護と福祉のEPA』の代理人にはできません。

 

代理人はドナーにとっての重要な事柄を決定することができる立場になりますので、

絶対的な信頼と責任のあるポジションです。

したがって次のようなことに責任を持つことになります。

・ドナーの最善の利益のために行動する。

・自立を促す。

・ドナーが特定の人を指名している場合、判断を下す時に そのキーパーソンに相談する。

・すべての金銭の記録を保管する。

 

代理人は絶対的な信頼と責任のあるポジション

 

ドナーは、代理人に以下のようなことを伝えておくとよいでしょう。

具体的な財産として、家や車、銀行口座、保険証書など、すべての主要資産のリストを知らせておくのがよいです。

債務およびその他の負債のリストや保険証書、出生証明書などの重要書類の保管場所などもこれにあたるかと思います。

 

代理人はドナーにとって非常に重要な役割を引き受けることになりますので、

代理人が一定の監督や管理を受けるように設定しておくこともできます。

例えば、

・代理人が何らかの決定を下す時に、必ず相談しなければならない人をドナーが指名することができる

・どう判断していいか分からないことが起こった場合は、代理人は指示を家庭裁判所に伺う(申請)することができる

家庭裁判所は、さまざまな権限を持っていて、

ドナーの精神的能力、EPAの有効性、代理人の決定の見直し、代理人の選任の取り消しなどを決定することができるとされています。

家庭裁判所への申請は、家族、エイジ・コンサーン(Age Concern*)、受託会社など関与している人が行うことができます。

 

Age Concern*:65歳以上の高齢者やその家族をサポートする慈善団体。www.ageconcern.org.nz

property

 

EPAの作成方法の基本

 

では、EPAはどのように作成するのでしょうか?

どちらのタイプのEPAにも法的な定形文があり、ドナーが希望する形の項目を選んでいく形式です。

完成したEPAには、ドナーと代理人の両者が署名をします。

ドナーの署名には弁護士やリーガルエグジェクティブ、受託会社関係者の立会いが必要です。

ドナーの署名証人となる人はドナーに文書の効力を説明し、説明したことを明言、確約する法的な証明書にサインしなければなりません。

したがって弁護士がこれを担うことが一般的です。

また、代理人の署名にも成人の立ち合いが必要となります。

 

 

EPAに任意条項を盛り込むことも可能

 

EPAの原本は定形であるため、

ドナーが任意事項やその他特記しておきたい事項があれば、

別添えで指示書を作成することができます。

例えば次のような事項を盛り込むことができます。

 

・ドナー自身が「誰が自分の精神能力を評価するのか」を指名する。

通常指名されるのはドクターです。


・代理人が何かを決定する前に「特定の誰かと協議しなければならない」「特定の誰かに常に情報を提供しなければならない」などの条件を定める。

家族関係者が多数の場合は有益な任意条項となるでしょう。


・『財産のEPA』では、代理人への特権や給付金を与えるかどうか任意で定められる。

しかし、『介護と福祉のEPA』では代理人は報酬を受け取ることが出来ません。


・バックアップの代理人(後任代理人)を加える。

 

 

EPA作成前に既にドナーの精神的能力がなかったら?

 

EPAを作成する前にドナーが判断能力を失った場合、

家庭裁判所での手続きが必要となります。

家庭裁判所は、個人的な世話と福祉に関するパーソナルオーダーを発することや財産管理人※を任命することが可能です。

ただし、この手続きはEPAがあった場合と比べて、時間と費用がかかることになるでしょう。

※Property manager

 

 

EPAが終了する時

 

ドナーは、精神的に能力があれば、いつでもEPAを撤回することができます。

この場合はドナーが撤回書に署名し(立会い人が必要)代理人に通知を送ります。

反対に代理人が役割を引き受けられなくなった時は、棄権通知をドナーもしくは裁判所に送ることによって辞任できます。

家庭裁判所の命令があった場合、ドナーもしくは代理人が死亡した場合は、そのEPAは無効になります。

 

ニュージーランドに住む我々にとって身近な法律問題

上記のタイトルに沿って、最近日本の新聞でみました二つの出来事をニュージーランドから見た視線で紹介してみます。

ハーグ条約

「ハーグ条約:国内手続き法が成立 年度内にも施行」と6月12日付けの毎日新聞に出ていました。まずハーグ条約とは英語でthe Hague Conventionと書き、ウィキペディアによりますと「オランダのハーグで行われたハーグ国際私法会議において締結された国際私法条約の総称。」となっています。 続きを読む

陪審員の役目を理解するために

陪審員の役目を理解するために

陪審制度に関係する最近の新聞記事を拾ってみました。

ニュージーランド日本法律問題研究会
西 村 純 一(弁護士)

ニュージーランドにおける陪審員の選考は選挙人登録名簿から無作為に選ばれますので、あなたにも召喚状が送られてくるかもしれません。2008年10月号に陪審員召喚について掲載致しましたが、その役目をより一層理解できるように陪審員が裁判にかかわる実例を次のとおり紹介致します。 続きを読む

Jury Service 陪審員召喚

Jury Service 陪審員召喚

(ニュージーランド法務省発行資料)

ニュージーランド日本法律問題研究会
翻訳:神 谷 岱 劭(J.P.)
監修:西 村 純 一(弁護士)
編集:松 崎 一 広

陪審員とは
陪審員は裁判所の審理に参加し、証拠や証言を吟味し、そして、陪審員の評決(決定)を下すために無作為に選出された12人によって構成されるグループです。 続きを読む

制定法の解釈

制定法の解釈と言う“身近な問題”

制定法の解釈などと言うものは、法廷弁護士間の議論か、裁判所にかかわりのない自分には関係ないと思われる人が多いかと理解しています。しかしながら法律がすべての人を対象とする性質のものであるため、ここニュージーランドに住む限り、まんざら他人事でもないという話を紹介しましょう。

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契約の持つ威力

日常生活の中で契約と言うものは頻繁に交わされています。契約成立の要素のひとつにOFFER(契約申込み)とACCEPTANCE(承諾)があります。

身近な法的契約の成立はスーパーマーケットで自分が選んだ商品をレジに差し出すことです。スーパー側は売るために既に値段を提示して商品を並べています。即ちこれがOFFERです。そしてある品を選んでレジに渡す行為がACCEPTANCEです。これでひとつの契約が成立です。紙に書かれたものだけが契約ではありません。行為や口頭でOFFERとACEPTANCEが認められる場合はすべて合法的な契約です。

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シビバツ事件

シビバツ事件の顛末

平手で2回位なら夫は妻を打ってもよいか?スポーツの有名人なら刑事裁判で名前を伏せてもよいか?海外出張を頻繁にする大きな仕事を人するなら、犯罪歴が今後の仕事の妨げになるので、軽犯罪で初犯の場合なら無実にしてもよいか?

この様な質問への答えは一見明らかの様に思われます。すぐに聞こえてきそうな反論は次の様なものではないでしょうか?

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判例から学ぶ!NZ法律案内 第6回

判例から学ぶ!NZ法律案内 第6回

第6回 契約義務の不履行

今回は契約に関係したRepudiation(リピュディエーション)という法律の考え方についてお話します。これは、契約義務を果たさなければならない期日前に、その実行を違法に拒絶することです。あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、日本人が犯しやすい過ちの一つでもあるのです。

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