高齢社会において大事な委任状 Enduring Power of Attorney (EPA)とは

Enduring Power of Attorney

ニュージーランドの高齢化社会では欠かせない法律的文書『Enduring Power of Attorney (EPA)』をご存知でしょうか?

 

EPAとは、

高齢によって判断能力が著しく低下した場合、

法律上の手続きを行う権限を他者に与える「永続的委任状」のことです。

 

 

Enduring Power of Attorney (EPA)ができること

 

永続的委任状(Enduring Power of Attorney 以下EPA)を作成することは、

あなたが自分自身のことを決定する能力を失った場合(認知症など)に、

信頼できる誰かに、あなたのために法的な決定をゆだねることができる方法です。

 

権限を与えるあなた(高齢者)は"ドナー"と呼ばれ、

ドナーが権限を与える相手(委任される人)は "代理人"と呼ばれます。

 

EPAには『介護と福祉のEPA』『財産のEPA』の2つのタイプがあります。

 

『介護と福祉のEPA』では、

代理人は、ドナーがどこに住むか、誰がドナーの面倒を見るか、どのような治療がドナーに必要かといった問題について決定することができます。

ただし、ドナーが「精神能力を喪失した」場合のみ有効です。

 

『財産のEPA』では、

代理人はドナーの金銭や財産に関する決定をすることができます。

特定の事項や財産に限定することも、全般的な権限とすることもできます。

ドナーが「精神能力を喪失した」後に限らず、ドナーの選択によってEPAを作成した直後から代理人は権限の実行を行うことが可能です。

 

上記で述べた「精神的能力を欠いている」とは、

どのように判断されるのでしょうか? 

『介護と福祉のEPA』では、ドナーが介護や福祉に関する意思決定ができず、理解もできない状態です。

『財産のEPA』では、ドナーが自分のお金や財産を完全に管理する能力がない状態を言います。

判断が難しい場合には、資格のある医療従事者のプロフェッショナル・アセスメントをもって判断されることになります。

 

どんな人が代理人になる?

 

『介護と福祉のEPA 』では代理人は一人、

『財産のEPA』については複数の代理人を立てることができます。

 

多くの場合、ドナーは20歳以上の家族(通常ドナーの息子や娘)や親しい友人などの信頼できる人を選んでいます。

家族の中にその候補者がいない場合は、

受託会社(Trustee Companies)を『財産のEPA』に関する代理人とすることができます。

しかし、受託会社を『介護と福祉のEPA』の代理人にはできません。

 

代理人はドナーにとっての重要な事柄を決定することができる立場になりますので、

絶対的な信頼と責任のあるポジションです。

したがって次のようなことに責任を持つことになります。

・ドナーの最善の利益のために行動する。

・自立を促す。

・ドナーが特定の人を指名している場合、判断を下す時に そのキーパーソンに相談する。

・すべての金銭の記録を保管する。

 

代理人は絶対的な信頼と責任のあるポジション

 

ドナーは、代理人に以下のようなことを伝えておくとよいでしょう。

具体的な財産として、家や車、銀行口座、保険証書など、すべての主要資産のリストを知らせておくのがよいです。

債務およびその他の負債のリストや保険証書、出生証明書などの重要書類の保管場所などもこれにあたるかと思います。

 

代理人はドナーにとって非常に重要な役割を引き受けることになりますので、

代理人が一定の監督や管理を受けるように設定しておくこともできます。

例えば、

・代理人が何らかの決定を下す時に、必ず相談しなければならない人をドナーが指名することができる

・どう判断していいか分からないことが起こった場合は、代理人は指示を家庭裁判所に伺う(申請)することができる

家庭裁判所は、さまざまな権限を持っていて、

ドナーの精神的能力、EPAの有効性、代理人の決定の見直し、代理人の選任の取り消しなどを決定することができるとされています。

家庭裁判所への申請は、家族、エイジ・コンサーン(Age Concern*)、受託会社など関与している人が行うことができます。

 

Age Concern*:65歳以上の高齢者やその家族をサポートする慈善団体。www.ageconcern.org.nz

property

 

EPAの作成方法の基本

 

では、EPAはどのように作成するのでしょうか?

どちらのタイプのEPAにも法的な定形文があり、ドナーが希望する形の項目を選んでいく形式です。

完成したEPAには、ドナーと代理人の両者が署名をします。

ドナーの署名には弁護士やリーガルエグジェクティブ、受託会社関係者の立会いが必要です。

ドナーの署名証人となる人はドナーに文書の効力を説明し、説明したことを明言、確約する法的な証明書にサインしなければなりません。

したがって弁護士がこれを担うことが一般的です。

また、代理人の署名にも成人の立ち合いが必要となります。

 

 

EPAに任意条項を盛り込むことも可能

 

EPAの原本は定形であるため、

ドナーが任意事項やその他特記しておきたい事項があれば、

別添えで指示書を作成することができます。

例えば次のような事項を盛り込むことができます。

 

・ドナー自身が「誰が自分の精神能力を評価するのか」を指名する。

通常指名されるのはドクターです。


・代理人が何かを決定する前に「特定の誰かと協議しなければならない」「特定の誰かに常に情報を提供しなければならない」などの条件を定める。

家族関係者が多数の場合は有益な任意条項となるでしょう。


・『財産のEPA』では、代理人への特権や給付金を与えるかどうか任意で定められる。

しかし、『介護と福祉のEPA』では代理人は報酬を受け取ることが出来ません。


・バックアップの代理人(後任代理人)を加える。

 

 

EPA作成前に既にドナーの精神的能力がなかったら?

 

EPAを作成する前にドナーが判断能力を失った場合、

家庭裁判所での手続きが必要となります。

家庭裁判所は、個人的な世話と福祉に関するパーソナルオーダーを発することや財産管理人※を任命することが可能です。

ただし、この手続きはEPAがあった場合と比べて、時間と費用がかかることになるでしょう。

※Property manager

 

 

EPAが終了する時

 

ドナーは、精神的に能力があれば、いつでもEPAを撤回することができます。

この場合はドナーが撤回書に署名し(立会い人が必要)代理人に通知を送ります。

反対に代理人が役割を引き受けられなくなった時は、棄権通知をドナーもしくは裁判所に送ることによって辞任できます。

家庭裁判所の命令があった場合、ドナーもしくは代理人が死亡した場合は、そのEPAは無効になります。