日本はNZでどう報道されているか?-最近の記事から

ニュージーランドの一般の人はどの様にして日本を認識してゆくのでしょう?日本に行ったことがあるとか、親しい日本人の友達がいる人はやはり少数でしょうから、こちらでの日本に関する報道が中心になると考えています。 それだけに日本がからんだニュース記事にはいつも気にかけています。最近、気になった記事二つを紹介してみます。

一つ目は元シーシェパードのメンバーで、日本で有罪判決を受けたピーター・ベスーンの記事が久しぶりに出ていました(3News 14/5/13)。 彼の乗っていたアデーギル号と日本の調査捕鯨船団の監視船第2昭南丸が衝突して、これに「抗議」するために捕鯨船に乗り込んで逮捕された話はご存知のことと思います。結果として日本で執行猶予判決、国外追放を受けましたが、帰国後彼はシーシェパードとお金の事(?)で仲たがいし、シーシェパードを訴えていました。これが和解したと言うのが今回の記事でした。

もともと民亊裁判ですので、詳細は分からずにいましたが、今回の報道によりますと捕鯨妨害をしている時に万一この船を失うことがあればシーシェパードが1.5ミリオンドルを支払うとの約束があったそうです。1ミリオンは既に支払われていた様ですが(?)、残金が支払われず、裁判になっていました。最近これをシーシェパードが支払う事で合意が出来たと言うのがこの報道の中心です。

この短い記事の中でアレレと思うことが二つありました。
この裁判が始まった後になってアデーギル号が衝突による被害を受けた時にシーシェパードはベスーンに「船をあきらめろ」すなわち沈めろと命令したと彼は主張していました。彼のコメントです。「シーシェパードは私に支払わなくてもいいと主張したんだ。その理由は私が南極における海洋法に従わなかったから。でも私の仕事は海洋法に従うことではなく、日本の捕鯨者の邪魔をする事で、私は私の持つ力の限りを尽くした。私は5ヶ月間も彼らに代わって日本の刑務所に入っていたんだ。」

ピーター・ベスーンが抗議の為に日本の捕鯨船に乗り込んだ時、次のような抗議文を渡していました。「海洋法上、日本の船は衝突を回避する義務を怠ったので、あなた(日本の船長)を逮捕する」「衝突の結果として私の船は沈んだ」「私の船を弁償するためにUSドルで3ミリオン支払え。」 これほど前言とまったく違うことを言ってもまったく気にしない、責任を持たないのかと呆れています。
この報道の終わりにニュージーランドにおけるシーシェパード代表が出てきて、「裁判が解決して、違法な日本の密猟者によって破壊されたアデーギル号が補償されたのは良いことだ。」とコメントしています。英語で表現しますと耳に残る言葉が一番最後に来ます。"the Ady Gil, which we believe was destroyed by the illegal Japanese poachers."
彼らの法廷での争いが解決したと言うのがこの報道の主旨ではありますが、「日本のやっている事はやはり密漁だ」とさらっと流された印象だけがやけに残ると感じたのは私だけだったのでしょうか?この報道がニュージーランド人一般にそう言った印象を与えていなかったか気になるところです。

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もう一つは今年の3月に元オールブラックスのジェリー・コリンズが浜松のデパートで逮捕された話です。(New Zealand Herald 18/3/13)彼はヤマハのラグビークラブに所属し、この地に住んでいました。奇妙な行動で食料品売り場のカウンターの奥まで入って来て、ポケットからナイフを取り出してカウンターに置いた。これを取り上げたガードマンが警察を呼んでその場で逮捕となりました。英語で何か言っていたが、回りの人は理解できなかったし、彼が元オールブラックスと誰も知らなかった。日本で彼を知る人はかなりのラグビーファンだけではないかと思いますので、ある意味ではそんなものかと言った感想でした。彼の名誉の為に付け加えますと、暴力的でもなかったし、誰かを脅かすこともなく、ましてやレジからお金を取ろうとした訳でもなかったそうです。
日本では気をつけて捜さないと分からないくらいの小さな新聞記事で、追跡記事もない一回きりであったそうですが、ニュージーランドではまだ詳細が分からない時からテレビの臨時ニュースで流れていました。その後もニュージーランド側では毎日続報が流れ、ナイフは2本持っていた、長さ17センチのナイフ(包丁)を持ち歩く事は日本では違法である、逮捕される時に暴れたり抵抗した訳でもないのに30人の警察官が来たとか。もちろん小さい日本の警官に対して彼はとても大きかったと言うための話です。

ともあれ誰でも気になるのがなぜ彼はそんな奇怪な(bizarre)行動に出たのかです。彼にインタビューするためにわざわざ日本まで行ったジョン ・キャンベルに彼が語ったのは決してドラッグに手を染めていた訳ではない。ブラジルのギャング(ブラジルから来ている労働者?)から脅かされていて、彼らから身を守るためにナイフを持ち歩いていた。ギャングとの誤解(misunderstanding)が極限に達して命の危険を感じた。実際逮捕されて警察に着いた時はホッとしたと語ったそうです。最終的にコリンズは罰金$1,900を支払って釈放されました。日本の刑務所ではとても親切で、とても寛大な扱いを受けたとも語っていました。
その後彼の弁護士が日本へ行き、帰ってきた時にマスコミのインタビューを受け、ドラッグの影響などは全くなかったとした上で、女性との関係がブラジルのギャングにつながり、命の危険を感じるまでになったと語りました。

ちなみに弁護士ルールにはクライアントの許可を受けずに勝手にマスコミに話してはいけないとなっていましたので、これはコリンズが弁護士に言ってくれと頼んだものと思われます。

最近の新聞(5月20日)で彼は今後のラグビーについて語っています。その中でも「事件」については語りたくないとしながら、日本の警察が彼の話を受け入れたので釈放に繋がったとしています。すなわちブラジルギャングのつながりを持つ女性との関係がこの事件を引き起こすことになったと。

日本を離れて久しく、かつ浜松に住んだことのない私でも「ほんとうに日本には外国人のギャングがはびこっているの?」と素直に納得できませんんでした。まして日本のヤクザではなく、ブラジリアンギャングと聞けばなおさら、「ちょっと変じゃない?」と感じていました。

ちょうどその頃、浜松に20年近く住んでいるキーウィの友人がホリディで戻ってきたので冗談半分に「コリンズのおかげで浜松が有名になったね」と言うと彼の返事は私の予想通りでした。「僕は浜松に20年近く住んでいるけど、ブラジル人のギャングや外国人をターゲットにしたギャングなんて聞いたことがない。」

これは必ずしも彼一人の意見ではありません。海外に出てきた日本人が集まる様に浜松にも外人があつまる外人パブがあります。英語で会話の出来るこのパブに集まって、日ごろのストレスを発散しながら、情報を交換する場となっています。日本にいる外国人を狙っているギャングなどがいればたちまち彼らの間で話題になるはずですが、この友人はあっさりと「適当に作った話ではないか」と言っていました。浜松出身の方、いかがでしょうか?

ラグビー好きの若いキイウィにジェリー ・コリンズが日本で逮捕された話を知っているだろうと聞くと「ああー、ブラジルのギャングに脅かされた話?」と返ってきます。

私が気になったのはギャングとの言葉です。これは犯罪組織が存在することを匂わせます。もしコリンズがブラジル人に狙われたと言えば、そんなにこだわりません。日本人の犯罪者もいる訳ですから、ブラジルから来ている人の中にそう人もいるかと考えるだけです。

私がまだ持つ日本に対する常識で考えるとき、ブラジル人ギャングなんて浜松にいたら、目だって「仕事」がしにくいのではないか、直ぐに逮捕されることになるのではないか?一度逮捕される様な事になれば国外追放の可能性が大きいので、存在しにくいのではないか等々と考えてしまうのです。

大柄で鍛え上げられた体を持つコリンズが本当に命の危険を感じるくらいの脅かしがあったのなら、そのこと自体に犯罪を見出すことが出来ますが、警察がその後ブラジルギャングを追っている、もしくは逮捕したなどの話は入ってきていません。

言いにくい理由があるために、誰かのせいにしたいが、世話になっている日本人を悪く言うのは気が進まないので、ブラジル人を出してきたのかなと言うのが私による「ゲスの勘繰り」です。これがあたっていれば浜松、しいては日本のイメージを個人の都合で曲げて伝えたって事にならないか、気にしていますが、いかがでしょうか?

この原稿はオークランド日本人会会報2013年6/7月号に掲載したものです。