契約の持つ威力

日常生活の中で契約と言うものは頻繁に交わされています。契約成立の要素のひとつにOFFER(契約申込み)とACCEPTANCE(承諾)があります。

身近な法的契約の成立はスーパーマーケットで自分が選んだ商品をレジに差し出すことです。スーパー側は売るために既に値段を提示して商品を並べています。即ちこれがOFFERです。そしてある品を選んでレジに渡す行為がACCEPTANCEです。これでひとつの契約が成立です。紙に書かれたものだけが契約ではありません。行為や口頭でOFFERとACEPTANCEが認められる場合はすべて合法的な契約です。

ただこの様な少額の契約は例えば不良商品であるとして揉めた場合でも、全額返金してもまた反対に全額あきらめても額が知れています。

土地物件の売り買いとなるとちょっとした揉め事でも大きな金額が問題となってきます。そこで土地物件の売買の契約は書面によらなければならないと制定法で決めています。

家や土地を買う事は言うまでもなく大きな買い物ですから、買い手が契約にあたって何らかの条件を付けている事が多々あります。例えば建物の建付けを調べてみて問題がなければ買う、役所が持つ書類を調べて違法増築が認められなければ買う、もしくはローンが組めたら買うと言うのがそれにあたります。この条件が満たされなければ、契約は正式に解消されます。即ち頭金も買い手に戻され、契約がなかった時点に戻ります。

この契約条件が法律的に意味する事を知らないと一生後悔する事になると言うのがオークランドで芝刈り業を営むフレミング夫婦(以下F)に起こった2004年10月の“契約事件”です。このケースではFは自分の今の家が年末までに売れたらファンガレイに位置する売り手、タニアマナ ファミリートラスト(以下T)の物件を86万ドルで買うというのが条件でした。これもよくある条件のひとつです。なぜなら多くの人にとって自分が住んでいる家が唯一の大きな財産で、これが売れなければ次の家を購入する事は難しいからです。

このケースでは年末までにFの家は売れず、Tがこの契約を解約し2005年の末に他の人に77万ドルで売りました。通常ならFとの契約が成立しなかったため、Tは他の人に安く売らねばならなかったで、話は終わりです。
しかしながらTはこの9万ドルの差額、2005年末までの利子、新しく売りに出すためにかかった宣伝費用そしてこの裁判にかかる弁護士費用を要求して裁判に持ち込みました。

TによりますとFの家が売れなかったのは事実だが、売るための努力をしなかった事が契約義務違反にあたると言うのが訴えの理由です。事実Fは売り出されている事を示す不動産屋の看板を家の前に出す事を拒否し、オープンハウスを行わず、近所に配る広告等も許しませんでした。唯一ウエブサイトには出していた様ですが。

Fによりますと地元の不動産屋2件に彼らの家の売却を依頼したが、近所の人には売却しようとしている事を知られない様にも依頼したようです。その一つの理由は彼らが引越しする事を知って芝刈り契約のある客を失いたくなかったとしています。後で芝刈りのビジネスを高い値で売るためには、顧客をぎりぎりまで引き止めておく必要があったのかも知れません。

さらには2004年11月にFの近くで売りに出された別の物件に、Fが購入したい意向を伝えた事が裁判で明らかになっています。他の物件が気に入ったため、前の契約をキャンセルし様と考えていたのかもしれません。

いずれにせよ裁判所は売り手Tの訴えを認める判決を下しました。Fにとって恐ろしい事に話はここで終りませんでした。裁判所の認定した金額に不満があるとして勝訴していたTが上告しました。結果的に上告審でもTは勝訴したためFが使ったお金はなんと40万ドルに上ったと報道されています。

条件付きの契約を交わした後は、契約義務(Contractual Obligation)に添って誠実(Good Faith)に理にかなった努力(Reasonable Effort)が要求されます。このケースでの失敗は“自分の物件が売れれば、あなたの物件を買う”と言う条件を“売らなければ、買わなくてよいと”勝手に解釈した事にあるのではないかと思われます。
法律的な契約を交わす事はとても重大な(Serious)事です。土地物件を購入にあたって仮契約と言う概念はニュージーランドにはありません。それだけに契約を交わす前に十分な検討を行い、契約を交わした後はその義務をきちっと果たす事がとても重要であると言えるでしょう。

(オークランド日本会会報2007年10月102号より引用)