ニュージーランドのビジネスオーナーは、ビジネス拡大のために人材を必要とする場合、主に二つの選択肢があります。一つ目は、自身が雇用主となって、フルタイム、パートタイム、カジュアルなどの雇用形態でEmployee(従業員)の雇用契約を結ぶこと、二つ目は、別のビジネスオーナーをContractor(受託者)として業務委託契約を結ぶ方法があります。EmployeeとContractorは、それぞれに法的に異なる権利と義務があり、メリットとデメリットがあります。今回はこれらの違いと、Contractorとして行った業務契約がEmployeeとして判断された最近の雇用裁判所の判例について説明します。
EmployeeとContractorの違い
雇用主と雇用契約(Employment Agreement)を結んだEmployeeは、NZの雇用法による権利が保証されます。例えば、最低時給の保証、有給休暇や病気休暇、雇用主から不当な扱いを受けた場合の提訴権などが挙げられます。雇用主側には、Employeeとの雇用契約書の保管、勤怠や給与についての記録、税金の支払いなどの法的義務が課されます。
これに対して、業務契約(Contractor Agreement)の場合、雇用主(=委託者)とは雇用関係にあたらず、Contractorは受託者として結んだ自身のビジネス契約となるため、雇用法にもとづく権利の恩恵を受けることは出来ません。そして、Contractorは、業務に必要な設備や道具などは自費で購入し、基本的に成果による報酬を委託者へ請求する形で対価を得ることが出来ます。また、一つの委託者に縛られることなく、別の委託者とも自由に契約をすることが出来ますが、発生した費用や利益の管理、税金の支払いなどはすべてContractor自身で行う義務があります。委託者側は、事業を縮小する場合に、業務契約を終了することにより費用を抑えることが出来ます。
雇用裁判所の判例とその影響について
2020年5月、雇用裁判所において、運送会社(委託者)と業務委託契約を結んでいた配達ドライバーが一方的に契約を打ち切られたことに対して、自身の契約形態はContractorではなくEmployeeであると提訴し、それが認められる判決が下されました。すなわち、この判決により、運送会社と配達作業員との間の契約は、雇用関係にあるとみなされました。これにともない、配達作業員は契約日から遡って雇用法に基づいて給与や有給休暇の権利、および不当解雇に対する提訴権をも得る形となります。
裁判では幅広い事実関係と雇用法の解釈が議論されました。とりわけ、運送会社側が配達ドライバーの業務を事実上コントロールしていたことで、ビジネスオーナーであるはずのドライバーに自主的な選択権がほぼ与えられていないことが判決の主旨となりました。『事実上のコントロール』の一例を挙げると、配送ルートは運送会社が指定しておりドライバー自身では変更できない、この運送会社以外からの集荷は出来ない、ドライバー自身で勤務日を選択できない、会社の承認なくして20日以上の休暇が取れないなどがあり、総合的にこれらの制約は雇用契約に近いものと判断されました。
別のポイントとして、ドライバーの母語が英語ではないため、彼が業務契約に書かれていた不利になり得る内容を理解できていなかったという弱者の立場が考慮されたことです。本来、Contractor契約は、別々のビジネスオーナーが同等の権利を持って、契約の自由の原則に基づいて行われます。したがって、一般的に裁判所の介入は最小限とされているため、この判決は議論の余地があると考えられます。この判決を踏まえて、委託先は業務契約を結ぶ際に、契約内容の全てを説明する義務はありませんが、契約前にリーガルアドバイスを受けるべきと受託者に伝えることで、このリスクは回避できると思われます。
なお、ニュージーランド国内の運送業界では一般的にContractor契約が行われていることもあり、インパクトのある先例となりました。ただし、雇用裁判所は、今回の判決はあくまでもこの二者間の事実関係が十分に考慮された上で、Employeeとみなす結論を下しており、ニュージーランド国内すべてのドライバーがただちにEmployeeになるわけではないとも述べています。