ニュージーランドでは、家の購入に弁護士が必要なのか?

初めてのマイホーム購入や投資物件の購入など、不動産売買に関するご相談が増えています。

「不動産屋さんがすべてやってくれるのでは? なぜ弁護士が必要なの?」と思われるかもしれません。

ここでは、ニュージーランドにおける不動産取引の流れと、弁護士が果たす重要な役割についてご説明します。

 

不動産屋さんの立ち位置と弁護士の立ち位置


家を購入する際には、内覧や物件・大家さんの情報収集、条件や価格の交渉などを不動産屋さんと行います。

ニュージーランドでは、不動産会社は「売り手側」の立場であり、買い手側をサポートするのは「買い手側の弁護士」です。

特に、契約後のプロセスにおいては弁護士の関与が不可欠です。


例えば、長年賃貸で住んでいた家を旧知の大家から直接購入する場合、

不動産会社を通さずに価格交渉や契約を進めることはできますが、

契約後は買い手と売り手の双方が弁護士を立てて手続きを進める必要があります。

 

不動産売買における弁護士の役割とは


不動産売買において、弁護士が担う役目は大きく言うと3つあります。

条件の交渉役、購入金の中継役、そして不動産登記の管理役です。


1. 契約条件の交渉役


弁護士は、契約内容の条件が完全に満たされたかどうかを確認するなど、Settlement日まで、相手弁護士とともに物件引き渡しの及び決済のお膳立てを行います。

例えば、ビルディングレポート(建物調査)の後、買い手側が気になる不具合部分があった場合、弁護士を通して交渉を行います。


2. 購入金の中継役


 家の売買には大きなお金が動きますので、

「買い手はSettlement日に必ずお金を振り込む。キャンセルしない」または「売り手はお金を受け取ったら、所有権を移す」という双方の弁護士間の誓約の元、

双方の弁護士を通してお金の受け渡しを行います。

具体的には、買い手は自分の弁護士のトラスト口座*に、購入金を振り込むことになります(トラスト口座はお客様の資金を一時的に預かるための口座です)。

 

3. 不動産登記の管理役


 不動産登記の変更(所有権の移転など)は、

政府の土地管理機関(LINZ)に登録された弁護士またはConveyancerのみが行えます。

Settlement(引き渡し日)前に準備を整え、当日には双方の弁護士が登記変更の手続きを実施します。

上記以外に、買い手の弁護士は、物件のLIMレポートやBuilding Reportのチェックも行います。

 

不動産売買契約書のチェックポイント


契約書は通常20ページ程度ありますが、全てを読むことが基本です。

特に注意すべきは、売り手と買い手の条件が記載されている箇所(1ページ目と17ページ目)です。

条件は双方の意向により異なるため、しっかり確認してください。

また、契約書には弁護士の情報(名前や連絡先)も記載する必要があります。

サインする前に弁護士を決めておくと、プロセスがスムーズです。

 

気になる弁護士への依頼費用


弁護士費用について不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。

依頼内容によって費用が異なりますが、弊社では一般的な自宅購入の場合、以下の定額で提供しています


【自宅購入の際のサービス費用(GST抜きの価格)】(2024年7月現在):


  – アパートメント以外の場合: 1,800ドル
  – アパートメントの場合: 2,050ドル
  – LINZ使用料: 約200ドル
  – モーゲージありの場合: 300ドル
  – Kiwisaver利用の場合: おひとり250ドル


これらの費用には、不動産売買契約書、LIMレポート、ビルディングレポートに関する弊社での確認・説明が含まれます(入手料は含まれていません)。

ただし、欠陥の発覚などにより相手との交渉が長引く場合などは、追加料金が発生する場合がありますので、ご了承ください。


家を購入しようと決めた際には、弊社にご相談ください。

不動産売買契約書の内容や、オファーを出す際に注意すべき点などについて、詳細にご説明させていただきます。


初めてのマイホーム購入、家の売却や買い替え、投資物件の売買についてのご相談は、メールでお願いします。  contact@rosebanklaw.co.nz

ニュージーランドの遺言書にまつわるQ&A

ニュージーランドの遺言書に関して、よくいただく質問にお答えいたします。

 

Q1:遺言書は自分で作れますか?

 

A1:遺言書をご自身で作ることは可能です。

遺言書は、そのものだけでは財産を動かすことはできず、遺言書を執行する際に高等裁判所の認可が必要となります。

裁判所から認可を得るためには、遺言書の法律が定める正式な形式を満たしていなけれななりません。

例えば、ご自身で作った後、成人二人の証人の同席による署名が必要で、

その署名証人は相続人であってはいけません。

 

 

Q2:遺言書が無い場合、困ることはありますか?

 

A2:遺言書を残さずに亡くなった場合は、高等裁判所に遺産管理人の申請(Letters of Administration)をすることになります。

この申請が認可されると、相続権利のある人が遺産管理人となり、銀行預金の引き出しなどを行うことができます。

ただし、この手続きは、遺言書の作成よりも手間・時間と費用が掛かります

 

 

Q3:遺言書はどんな時に作るべきですか? 

 

A3:ニュージーランドでは、遺言書は高齢や病気になってからではなく、家を購入した時や結婚した時に作成することも一般的です。

不測の事態に備えて作っておくとよいでしょう。

 

 

 

Q4:遺言書に有効期限はありますか?

 

A4:遺言書に有効期限はありません。

ただし、「最新版が有効」というルールがあります。

10年前に作った遺言書があったとしても、その後書き直しや改めて遺言書を作った時には、

10年前の遺言書は無効となります。

 

 

Q5:遺言書は誰がどのように保管すればよいですか? もしなくしたら、どうなりますか?

 

A5:遺言書の原本は、ご本人や遺言書執行人、弁護士などによって、なくさないように保管されるものです。

必ずコピーをとり、別の人が保管するとよいでしょう。

もし、原本をなくした場合は、裁判所への手続きが必要となってくるかと思われます。

 

 

Q6:遺言書は、夫婦一緒に作るべきですか?

 

A6:夫婦と言えども、別々の遺言書しか作れません。

仮に中身が同じ(Mirror Image)だとしてもです。

ちなみにこれは日本でも同じです。

弊社で遺言書作成をお受けする際は、

お一人ずつお話を伺い、内容に夫婦で異なる希望があったとしても、そのまま反映させてお作りします。

 

 

Q7:日本にもニュージーランドにも財産がある場合、それぞれの国で遺言書を作るべきですか?

 

A7:世界の全財産を1つの遺言書にまとめることも、それぞれの国で作ることも可能です。

日本で作った日本語の遺言書の場合、

ニュージーランドの遺産を動かすには、ニュージーランドの高等裁判所の承認が必要です。

その承認を得るためには、遺言書の翻訳だけでは足りないことがあり、手続きにやや手間がかかります。

一方、それぞれの国で作る場合は、

他国の財産に関しては一切触れない内容にすると、それぞれの国での遺言書の執行はスムーズにいくでしょう。

 

 

Q8:遺言書の中身を考えるとき、どんなことに注意したらよいですか?

 

A8:遺言書は、ある程度の年数に耐えれる書類であるべきです。

したがって今自分に子供がいない場合でも「遺言者が亡くなった時点で生存している子供に残す」と書いたり、

子供が亡くなっている場合に備えて、「孫に残す」と言及するのもよいでしょう。

個人的な理由で「この子供には残さない」と明記する人もいました。

ご自身の意思を落とし込むことができます。

 

Q9:ニュージーランドの相続には、相続税はかからないのですか?

 

A9:ニュージーランドでは、相続税も贈与税(2011年に廃止)もかかりません。

ただし、相続人が日本在住の場合、日本の相続税が課されるかどうかはご確認ください。

 

 

Q10:亡くなった家族が遺言書を残したかどうかがわかりません。どうしたらよいですか?

 

A10:ニュージーランドで遺言書を残したかどうかを見つけるには、

弁護士間の掲示板にて「誰か遺言書の作成に携わった弁護士がいるかどうか」を呼びかける方法があります。

遺言書は存在しないと判断した場合は、

無遺言書として、高等裁判所に遺産管理人の申請(Letters of Administration)をするのが一般的です。

 

 

ローズバンク法律事務所では、遺言書の作成遺言書の執行申請無遺言書の場合の遺産管理人の申請(Letters of Administration)を承ります。

contact@rosebanklaw.co.nz まで、メールにてご相談ください。

高齢社会において大事な委任状 Enduring Power of Attorney (EPA)とは

Enduring Power of Attorney

ニュージーランドの高齢化社会では欠かせない法律的文書『Enduring Power of Attorney (EPA)』をご存知でしょうか?

 

EPAとは、

高齢によって判断能力が著しく低下した場合、

法律上の手続きを行う権限を他者に与える「永続的委任状」のことです。

 

 

Enduring Power of Attorney (EPA)ができること

 

永続的委任状(Enduring Power of Attorney 以下EPA)を作成することは、

あなたが自分自身のことを決定する能力を失った場合(認知症など)に、

信頼できる誰かに、あなたのために法的な決定をゆだねることができる方法です。

 

権限を与えるあなた(高齢者)は"ドナー"と呼ばれ、

ドナーが権限を与える相手(委任される人)は "代理人"と呼ばれます。

 

EPAには『介護と福祉のEPA』『財産のEPA』の2つのタイプがあります。

 

『介護と福祉のEPA』では、

代理人は、ドナーがどこに住むか、誰がドナーの面倒を見るか、どのような治療がドナーに必要かといった問題について決定することができます。

ただし、ドナーが「精神能力を喪失した」場合のみ有効です。

 

『財産のEPA』では、

代理人はドナーの金銭や財産に関する決定をすることができます。

特定の事項や財産に限定することも、全般的な権限とすることもできます。

ドナーが「精神能力を喪失した」後に限らず、ドナーの選択によってEPAを作成した直後から代理人は権限の実行を行うことが可能です。

 

上記で述べた「精神的能力を欠いている」とは、

どのように判断されるのでしょうか? 

『介護と福祉のEPA』では、ドナーが介護や福祉に関する意思決定ができず、理解もできない状態です。

『財産のEPA』では、ドナーが自分のお金や財産を完全に管理する能力がない状態を言います。

判断が難しい場合には、資格のある医療従事者のプロフェッショナル・アセスメントをもって判断されることになります。

 

どんな人が代理人になる?

 

『介護と福祉のEPA 』では代理人は一人、

『財産のEPA』については複数の代理人を立てることができます。

 

多くの場合、ドナーは20歳以上の家族(通常ドナーの息子や娘)や親しい友人などの信頼できる人を選んでいます。

家族の中にその候補者がいない場合は、

受託会社(Trustee Companies)を『財産のEPA』に関する代理人とすることができます。

しかし、受託会社を『介護と福祉のEPA』の代理人にはできません。

 

代理人はドナーにとっての重要な事柄を決定することができる立場になりますので、

絶対的な信頼と責任のあるポジションです。

したがって次のようなことに責任を持つことになります。

・ドナーの最善の利益のために行動する。

・自立を促す。

・ドナーが特定の人を指名している場合、判断を下す時に そのキーパーソンに相談する。

・すべての金銭の記録を保管する。

 

代理人は絶対的な信頼と責任のあるポジション

 

ドナーは、代理人に以下のようなことを伝えておくとよいでしょう。

具体的な財産として、家や車、銀行口座、保険証書など、すべての主要資産のリストを知らせておくのがよいです。

債務およびその他の負債のリストや保険証書、出生証明書などの重要書類の保管場所などもこれにあたるかと思います。

 

代理人はドナーにとって非常に重要な役割を引き受けることになりますので、

代理人が一定の監督や管理を受けるように設定しておくこともできます。

例えば、

・代理人が何らかの決定を下す時に、必ず相談しなければならない人をドナーが指名することができる

・どう判断していいか分からないことが起こった場合は、代理人は指示を家庭裁判所に伺う(申請)することができる

家庭裁判所は、さまざまな権限を持っていて、

ドナーの精神的能力、EPAの有効性、代理人の決定の見直し、代理人の選任の取り消しなどを決定することができるとされています。

家庭裁判所への申請は、家族、エイジ・コンサーン(Age Concern*)、受託会社など関与している人が行うことができます。

 

Age Concern*:65歳以上の高齢者やその家族をサポートする慈善団体。www.ageconcern.org.nz

property

 

EPAの作成方法の基本

 

では、EPAはどのように作成するのでしょうか?

どちらのタイプのEPAにも法的な定形文があり、ドナーが希望する形の項目を選んでいく形式です。

完成したEPAには、ドナーと代理人の両者が署名をします。

ドナーの署名には弁護士やリーガルエグジェクティブ、受託会社関係者の立会いが必要です。

ドナーの署名証人となる人はドナーに文書の効力を説明し、説明したことを明言、確約する法的な証明書にサインしなければなりません。

したがって弁護士がこれを担うことが一般的です。

また、代理人の署名にも成人の立ち合いが必要となります。

 

 

EPAに任意条項を盛り込むことも可能

 

EPAの原本は定形であるため、

ドナーが任意事項やその他特記しておきたい事項があれば、

別添えで指示書を作成することができます。

例えば次のような事項を盛り込むことができます。

 

・ドナー自身が「誰が自分の精神能力を評価するのか」を指名する。

通常指名されるのはドクターです。


・代理人が何かを決定する前に「特定の誰かと協議しなければならない」「特定の誰かに常に情報を提供しなければならない」などの条件を定める。

家族関係者が多数の場合は有益な任意条項となるでしょう。


・『財産のEPA』では、代理人への特権や給付金を与えるかどうか任意で定められる。

しかし、『介護と福祉のEPA』では代理人は報酬を受け取ることが出来ません。


・バックアップの代理人(後任代理人)を加える。

 

 

EPA作成前に既にドナーの精神的能力がなかったら?

 

EPAを作成する前にドナーが判断能力を失った場合、

家庭裁判所での手続きが必要となります。

家庭裁判所は、個人的な世話と福祉に関するパーソナルオーダーを発することや財産管理人※を任命することが可能です。

ただし、この手続きはEPAがあった場合と比べて、時間と費用がかかることになるでしょう。

※Property manager

 

 

EPAが終了する時

 

ドナーは、精神的に能力があれば、いつでもEPAを撤回することができます。

この場合はドナーが撤回書に署名し(立会い人が必要)代理人に通知を送ります。

反対に代理人が役割を引き受けられなくなった時は、棄権通知をドナーもしくは裁判所に送ることによって辞任できます。

家庭裁判所の命令があった場合、ドナーもしくは代理人が死亡した場合は、そのEPAは無効になります。

 

Employee(従業員)とContractor(業務委託者)について(2020年6月)

ニュージーランドのビジネスオーナーは、ビジネス拡大のために人材を必要とする場合、主に二つの選択肢があります。一つ目は、自身が雇用主となって、フルタイム、パートタイム、カジュアルなどの雇用形態でEmployee(従業員)の雇用契約を結ぶこと、二つ目は、別のビジネスオーナーをContractor(受託者)として業務委託契約を結ぶ方法があります。EmployeeとContractorは、それぞれに法的に異なる権利と義務があり、メリットとデメリットがあります。今回はこれらの違いと、Contractorとして行った業務契約がEmployeeとして判断された最近の雇用裁判所の判例について説明します。

EmployeeとContractorの違い

雇用主と雇用契約(Employment Agreement)を結んだEmployeeは、NZの雇用法による権利が保証されます。例えば、最低時給の保証、有給休暇や病気休暇、雇用主から不当な扱いを受けた場合の提訴権などが挙げられます。雇用主側には、Employeeとの雇用契約書の保管、勤怠や給与についての記録、税金の支払いなどの法的義務が課されます。

これに対して、業務契約(Contractor Agreement)の場合、雇用主(=委託者)とは雇用関係にあたらず、Contractorは受託者として結んだ自身のビジネス契約となるため、雇用法にもとづく権利の恩恵を受けることは出来ません。そして、Contractorは、業務に必要な設備や道具などは自費で購入し、基本的に成果による報酬を委託者へ請求する形で対価を得ることが出来ます。また、一つの委託者に縛られることなく、別の委託者とも自由に契約をすることが出来ますが、発生した費用や利益の管理、税金の支払いなどはすべてContractor自身で行う義務があります。委託者側は、事業を縮小する場合に、業務契約を終了することにより費用を抑えることが出来ます。

雇用裁判所の判例とその影響について

2020年5月、雇用裁判所において、運送会社(委託者)と業務委託契約を結んでいた配達ドライバーが一方的に契約を打ち切られたことに対して、自身の契約形態はContractorではなくEmployeeであると提訴し、それが認められる判決が下されました。すなわち、この判決により、運送会社と配達作業員との間の契約は、雇用関係にあるとみなされました。これにともない、配達作業員は契約日から遡って雇用法に基づいて給与や有給休暇の権利、および不当解雇に対する提訴権をも得る形となります。

裁判では幅広い事実関係と雇用法の解釈が議論されました。とりわけ、運送会社側が配達ドライバーの業務を事実上コントロールしていたことで、ビジネスオーナーであるはずのドライバーに自主的な選択権がほぼ与えられていないことが判決の主旨となりました。『事実上のコントロール』の一例を挙げると、配送ルートは運送会社が指定しておりドライバー自身では変更できない、この運送会社以外からの集荷は出来ない、ドライバー自身で勤務日を選択できない、会社の承認なくして20日以上の休暇が取れないなどがあり、総合的にこれらの制約は雇用契約に近いものと判断されました。

別のポイントとして、ドライバーの母語が英語ではないため、彼が業務契約に書かれていた不利になり得る内容を理解できていなかったという弱者の立場が考慮されたことです。本来、Contractor契約は、別々のビジネスオーナーが同等の権利を持って、契約の自由の原則に基づいて行われます。したがって、一般的に裁判所の介入は最小限とされているため、この判決は議論の余地があると考えられます。この判決を踏まえて、委託先は業務契約を結ぶ際に、契約内容の全てを説明する義務はありませんが、契約前にリーガルアドバイスを受けるべきと受託者に伝えることで、このリスクは回避できると思われます。

なお、ニュージーランド国内の運送業界では一般的にContractor契約が行われていることもあり、インパクトのある先例となりました。ただし、雇用裁判所は、今回の判決はあくまでもこの二者間の事実関係が十分に考慮された上で、Employeeとみなす結論を下しており、ニュージーランド国内すべてのドライバーがただちにEmployeeになるわけではないとも述べています。

雇用関係調停所(Employment Relations Authority:ERA)の物議を呼ぶ不当解雇を認めた判決について(雇用関係法と移民法のそれぞれの観点より)(2021年2月)

2021年2月、ERAは、Pizza HutやKFCなど大手ファストフード店などを展開する企業の元従業員(ワークビザ保持者)の不当解雇(Unjustified Dismissal)の訴えを認め、雇用主側へ慰謝料$18,000の支払いを命じました。この判決に対し、移民法を専門とする何名かの弁護士は、ERAがワークビザ申請プロセスを理解しておらず、この判決によって、今後のワークビザ保持者の雇用機会を損われる可能性があるとし、物議を呼んでいます。時系列と事実関係を整理しつつ、この判決への見解を述べたいと思います。

背景

2017年1月、従業員Gは雇用主RBLとパーマネント従業員としてワークビザのもと雇用契約を開始しました。雇用開始時、Gはオープンワークビザという雇用主に限定されない種類のワークビザを保持していました。このオープンワークビザが失効する前に、RBLのサポートによって雇用主が限定される別のワークビザ(Essential Skills: ES)に切り替え、そのまま雇用が継続されました。ESワークビザの失効日は2019年3月7日でした。

2018年11月、Gはビザの失効日が近づいてきたため、RBLに連絡を行い、お互いに雇用契約を延長の意思を確認しました。ここでのポイントとして、Gは『パーマネント従業員』という立場であることから、RBLがワークビザを必ず取得してくれる前提と思い込んでおり、ESワークビザの申請プロセスを把握していなかったようです。また、RBLもESワークビザのプロセスやそれが雇用契約にどう影響を及ぼすのか、Gに説明した事実もありませんでした。

補足ですが、雇用主がESワークビザをサポートするにあたり一番重要な作業として、サポートしたい従業員のポジションにNZ人またはNZ永住権保持者の適任者がいないかどうかを確認する作業(求人マーケットチェック)があります。これはNZ国内の雇用を優先するための国策です。したがって、ESワークビザ申請書類にNZ人の適任者がいなかった証拠を添付する必要があり、適任者がいるようであれば、ESワークビザは発行されません。

2019年1月、RBLはマーケットチェックを行い、結果、NZ人の適任者が応募してきました。RBLは適任者が見つかっているにも関わらずESワークビザ申請を行うことは、却下されることが分かっているのにビザ申請を行うことに等しく、かつG個人の申請費用が無駄になると判断し、2月14日にESワークビザのサポートが出来ない旨を電話でGへ伝えました。その後、2月19日からそのNZ人の雇用が開始され、Gはビザが切れる3月7日まで勤務しました。

Gは、パーマネント従業員として雇用されていたにもかかわらず、2019年2月14日にRBLがワークビザのサポートをやめる決定を行ったことは、不当解雇にあたると主張し、$20,000の慰謝料(精神的苦痛)の請求をERAで争うこととなりました。

ERAの判決

ERAは、RBLが雇用主として、Gとのビザ申請に関するコミュニケーションを取れていなかったこととに誠意(Good faith)を欠いていたとみなしました。そして、2月14日にワークビザのサポートを諦めて、別の従業員を雇用したことは不当解雇にあたると結論付け、$18,000の慰謝料を支払うよう命じました。

弊社の見解

この判決のポイントは、雇用関係法(Employment Relations Act)と移民法(Immigration Act)という二つの法律にまたがった雇用問題をERAがどう判断するかでした。

NZの雇用関係法において、雇用期間を定める契約は、パーマネント(Permanent)とフィックス(Fixed-term)の二つが存在します。フィックス契約としての雇用を行う場合は、法的に正当な理由が必要とされており、例えば、産休中スタッフの代理などが該当します。ただし、ビザ期限はこの正当な理由に該当しないため、一般的にパーマネント契約であることが求められています。フィックス契約では期間満了をもって雇用契約が終わりますが、パーマネント契約の場合、雇用主が従業員を自由に解雇することはできません。具体的に解雇を行う場合は、書面での通知を行い、それに対する意見を設ける期間をあたえるなど、誠意を持って一定の手順を踏まなくてはなりません。今回のERAの判決は、一貫して雇用主としての誠意ある対応ができていなかったことが強調されており、『雇用関係法の観点』からはそれほど間違った判決ではないと言えます。

しかしながら、今回のERAの判決は、『移民法の観点』において大いに問題があります。一つ目は、ERAがESワークビザの申請プロセスの実務を把握していないと思われることです。雇用主が従業員のESワークビザをサポートするためには、そのポジションにふさわしいNZ人もしくはNZ永住権保持者で適任者がいないことが前提です。雇用主は、適任者が見つかった場合、ESワークビザをサポートする理由はありません。また、従業員の要望に応じてESワークビザを申請したところで、適任者が見つかったことをわざわざ移民局に報告するだけとなり、ビザが承認される理由もありません。しかし、ERAは、RBLがGの意思を確認せず、最後まで諦めずにGのビザサポートを行わなかったことは誠意を欠いた対応と述べました。ビザ申請プロセスを理解している弁護士からすると、却下されることが決まっているESワークビザ申請は行うべきではないとアドバイスするのが妥当です。なぜなら、申請費用が無駄になることもそうですが、ビザが却下された記録は移民局のデータに残る形となり、それが将来の別のビザ申請に影響を及ぼす可能性があるためです。したがって、ERAの判決にはこういったビザプロセスの実情が考慮されていません。

二つ目は、GがESワークビザのことを理解していなかったにもかかわらず、ERAがほぼ全面的にRBL側のコミュニケーションに問題があったと述べていることです。通常、ビザは個人に帰属し、個人の責任で取得する必要があります。GはNZに法的に滞在する以上、最低限のビザに関する知識を持ち、それを分かった上で雇用契約することが当然とされます。したがって、Gはパーマネント契約ではあるものの、それはあくまでも有効なビザを自身が保持しているという、いわば条件付きであることを理解していなくてはなりません。同様に、ビザ申請プロセスの結果、雇用継続が出来なくなるリスクがあることも理解していなくてはならないはずです。事実関係から、RBLのコミュニケーション不足は否めませんが、条件付であったパーマネント契約を打ち切る決定は移民法の観点からは外れていないと言えます。しかしながら、今回のケースでは、あくまでもERAは雇用契約法寄りの判決を下す可能性が高いことが示唆されたため、雇用主は注意が必要です。

おわりに

今回のERAの判決で浮き彫りとなった雇用関係法と移民法にまたがる雇用問題ですが、法整備が求められると考えています。もともと、雇用関係法はNZ国内の雇用契約を前提として起案されたものであり、ビザ保持者の雇用契約については規定されていません。とりわけ、滞在期間の限られたビザ保持者がパーマネント契約を行うことは、雇用関係法に矛盾しているともいえます。

最後に、雇用主が出来る対策としては、まず全従業員のビザ期限を記録しておき、更新の3~4ヶ月前から話し合いの時間を設けて、雇用の継続はあくまでもビザが取得できた場合に限ること改めて説明することです。そして、もし求人マーケットチェックでNZ人もしくはNZ永住権保持者の適任者が見つかりサポートが出来ないようであれば、すぐに従業員に報告し、雇用契約はビザ期限で終了となる旨を伝えることが重要です。そして、一貫してこれらの報告や話し合いには誠意を持って対応する必要があります。

フラットメイトがボンド返却してもらえない(2018年11月)

質問

フラットでモノを壊したりしていないし、特に目立った傷なども残していないのに、ボンドを返してもらえません。この国の賃貸ルールがわからず、契約書などもサインしていませんでした。この場合、ボンドを返してもらうのは無理ですか?

回答

はじめに、テナントとフラットメイトの違いが重要ですので触れておきたいと思います。

前者はResidential Tenancies Act (RTA法)という法律の下でランドロードと正式契約を交わした人であり、同法によりランドロードとテナントの双方に義務と権利が生じます。具体的には、ランドロードは賃貸契約書の作成やボンドの払い戻し手続きなど、テナントは期日通りに賃貸料を納める義務などがあります。そして、双方で争いが生じた場合、Tenancy Tribunalというテナントに関する問題を扱う専門機関に提訴し解決を図ります。

これに対して、フラットはカジュアルな形での賃貸契約であり、ランドロードが住んでいる家の同居人として部屋を借りる契約(ホームステイ等)、もしくはテナントとしてすでに契約している他の同居人との契約などが一般的です。ここでのポイントは、フラットは法的な権利が曖昧であり、前述のRTA法ではカバーされていないため、何か問題が発生した場合、Tenancy Tribunalを利用することが出来ません。

今回のケースですが、同じような理不尽な状況に置かれたことがある方もいらっしゃると思います。まずは、手紙、メール、電話など出来る手段で相手にプレッシャーをかけることが大事です。それで解決が出来れなければDispute Tribunalという簡易的な係争全般を取り扱う機関に提訴することは可能です。この場合、客観的な証拠が重要となりますが、フラットの場合、契約書を書面で交わしていない場合が多いと思います。ただし、そこに住んでいたという事実とそれを客観的に証明できるもの(ボンドやレントの銀行記録、同居人とのメールなど)があれば、有効なフラット契約であったとみなされて、ボンド返却の決定が下される可能性はあります。

すでにフラットとして同居し契約書をお持ちでない方、もしくは今後フラットとして入居を予定される方は、Tenancy ServiceのWebsiteからフラット用の契約書フォーマットがダウンロードできますので、同居人とご相談の上で、書面で契約を交わしておき、ボンドについては相手の署名と金額の入ったレシートを入手されておくことをお勧めいたします。

永住権保持者が犯罪を犯したことによる国外追放の可能性について(2022年4月)

2021 Resident Visaにより、多くの方が永住権保持者になることを踏まえて、永住権を持っていても国外追放になる可能性があることを、注意喚起のために今一度、皆様にお伝えしたいと思います。

永住権(Resident Visaもしくは Permanent  Resident Visa)を持っていても刑事罰を受け、裁判において有罪判決を受けた場合は、移民局の決定により国外追放になる可能性があります。国外追放の主な基準は、①永住権を取ってからの期間、②有罪判決を受けた罪の重さの2点で、簡易的な表にまとめると以下となります(○印は国外追放の可能性有り)。

①永住権取得後
2年以内 5年以内 10年以内
②刑罰の重さ 禁固3ヶ月以上が
求刑可能な罪
   
禁固2年以上が
求刑可能な罪
 
禁固5年以上の罪

 

身近な例としては、永住権取得から2年を経過していない方が飲酒運転により有罪になる場合です。初めての飲酒運転で捕まりアルコール検査の結果、濃度が一定基準を超えると、3ヶ月以下の禁固刑もしくは$4,500以下の罰金刑 、加えて 6ヶ月の免許停止の刑事罰が科せられます。重要な点は、実刑が罰金刑と免停処分だけで済んだとしても、この刑罰そのものが『3ヶ月の禁固刑を求刑可能』なため、禁固3ヶ月以上の実刑判決を受けなくても国外追放の対象となることです。

なお、まだ永住権を申請中のワークビザ保持者の場合、移民局が国外追放するのに『十分な理由』があると判断されると追放の対象となります。十分な理由には、ビザ条件の違反、申請書の虚偽記載、そして犯罪行為が含まれます。ここでの犯罪行為は、刑罰の重さや有罪判決の有無などの基準は設定されておらず、犯罪行為があったという事実が十分な理由とみなされれば、国外追放の対象になることがありますので、ご注意ください。

テナントの保護が強化された新しい法律(2022年5月)

ニュージーランド政府は住宅賃貸法(Residential Tenancy Act 1986)の見直しを行い、近年の賃貸状況を反映させた住宅賃貸改正法(Residential Tenancy Amendment Act 2020)が執行されています。

ニュージーランドの不動産価格は高騰値の記録が続き、それに影響され、賃貸をする人口がかつてないほど増えました。そこで、政府は現在の賃貸の特性などを考慮し、テナント側に適度な保護を与える法律に改正しました。

初めにフラットメイトとテナントの違いについて留意しておきます。フラットメイトは、ランドロードを介さず(ランドロードと一緒に住んでいる場合もありますが)、既にフラットに住んでいるテナントと賃貸契約された方のことを言います。テナントはランドロードと正式に賃貸契約(Tenancy Agreement)を交わした人で、Residential Tenancies Act (RTA法)の対象になります。

改正法以前の法律では、「No Cause Termination」という、ある一定の条件下でNoticeをだせば、理由をなしに賃貸契約を解除できましたが、新しい法律ではそれができなくなりました。今後は、大家から解約をを求める為には、主に以下の根拠をテナントに提示している場合に限られます。

  • 大家又は大家の家族が、物件に住む場合 - 63日Notice
  • 物件売却を予定している場合  ― 90日Notice
  • 5日以上の賃料延滞を90日以内に3回行い、3回ともテナントへ通知している場合、裁判所(Tenancy Tribunal)に解約申請が可能
  • 反社会的行動を90日以内に3回行い、3回ともテナントへ通知している場合、裁判所(Tenancy Tribunal)に解約申請が可能

それ以外の重要な変更には:

  • 賃貸料の値上げは、賃貸契約開始後又は最後の賃貸料の値上げが行われた後、12カ月に一回のみ。
  • 賃貸に大きな損傷を与えないMinor Changeに対し、基本費用はテナントの実費になるが大家は不合理に反対する事ができない。例えば、テナントから大家へ室内の壁の色を変更したいという要望があった場合、色の変更は家に損傷を与えない為、大家は反対することができない。だがペイントの色に問題があると考える場合は、大家はテナントが退去する際に元の色に戻すことを要求できる。
  • 大家又はエージェントがテナント募集の広告内に賃料を明確に表示する義務が課せられた。

以上のような変更がなされましたが、その背景には長年の賃貸を余儀なくされるテナントへ、賃貸物件でも「Home」という認識で継続できる住居の確保が意図されいるようです。

 

職場の健康および安全に関する法律(Health and Safety at Work Act 2015)施行後の個人責任に及ぶ判例について(2021年10月)

2016年4月4日に職場の健康および安全に関する法律(Health and Safety at Work Act 2015:HSWA法)の施行から6年が経過しました。施行後、同法上での判決ではこれまで法人のみが刑罰の対象とされておりましたが、2021年10月にはじめて個人責任にまでおよぶ判決が出ました。

予備知識として、HSWA法は以前のWork Safe法に代わって、ニュージーランド国内の職場環境における健康維持や安全管理を向上させる目的で制定されました。旧法からの変更点として、法人に対する最大罰金刑の大幅引き上げ(50万ドル→300万ドル)、また法人の監督責任者に対する個人罰(最大禁固5年、罰金60万ドル)が導入され、業務を行う個人・法人への法的な安全責任が厳しくなりました。

HSWA法においてはじめて個人責任にまでおよぶ判決の事の顛末は、プレスマシーンを取り扱う企業の従業員が操作を誤った結果、右手の指を2本失う事故が起こりました。これにより、企業側に$120,000の罰金刑および被害者への$30,000の賠償金、そして企業の取締役個人に対して$35,000の罰金刑が科せられる判決となりました。

安全監督当局(Work Safe NZ)の捜査によると、プレスマシーンに適切なガードが無く、緊急停止ボタンもついていなかった、さらに、このプレスマシーンには以前にも同様の問題が発生していたが、それを社内でリスクとして共有していなかった。そして、従業員への書面での研修記録も見当たらなかった。加えて、この企業には過去に従業員が怪我をしたことによる過去二度の有罪歴があり、安全監督当局により職場の安全性について3つの是正勧告がまさに出されていたところでした。安全監督当局は、上記の度重なる職場への安全の配慮が見直されてこなかったことを重く見て、法人だけではなく取締役個人へも起訴し、それが裁判においてはじめて認められた判例となりました。

今回の罰則の対象となった企業はプレスマシーンという特殊な機械ではあるため、この記事の読者の方には自分には関係ないと思われるかもしれません。ただ、これを皆さんの会社にある他の設備に置き換えてみると、より身近に感じるのではないかと思います。特に、製造、工場、倉庫などで勤務されている方は、客観的に周りを見ると潜在的なリスクが沢山ある事に気が付かれるはずです。そして、特に雇用主の方は、それらのリスクが認識、共有されているか、業務にかかわる全員が適切な研修を受けているか、それらが書類として保管され、マニュアル化されているか、などを今一度、ご確認することをお勧めいたします。

容姿による即日解雇通告(2022年10月)

質問

レストラン勤務の20歳です。ワーホリ生活を楽しもうと髪をグリーンに染めて出勤したところ、オーナーからそんな色だと不快と感じるお客様がいるので、常識的な容姿でなければ雇用継続は難しいと言われました。私は髪を染め直すのは嫌だと言い、話合いの末、即日解雇されてしまいました。納得がいかないので、アドバイス下さい。

回答

まず一般的に、雇用主が従業員を解雇する場合、書面通告を何度か行うなど、一定の手順が義務とされております。もし、解雇手順に誤りがあり、その事実が雇用調停所で争われて、雇用主側の不当解雇とみなされた場合、従業員へ慰謝料等を支払う決定が下されます。

この一般的な解雇手続とは別に、事前通告なしの解雇(Dismissal Without Notice)があり、今回の質問者様は、こちらに該当すると思われます。この即日解雇が正当化される主な状況は、従業員が重大な不正行為(Serious Misconduct)を行った時に限られており、これらの不正行為の種類は、多くの場合、雇用契約書に記載されています。分かりやすい例としては、暴行や窃盗などの犯罪が挙げられますが、中には社内規定に著しく違反、会社の指示に従わなかった場合なども含まれることがあります。

接客業であれば、容姿についてある程度の社内規定を設けるのは一般的で、かつ指示に従わなかったという点で、雇用主は即日解雇に至ったのではと思います。しかし、雇用主は、即日解雇を行う前に、従業員が重大な不正行為をしたか判断するためのフェアプロセスを実施する必要があります。質問者様は、解雇直前に話合いをされたようですが、即日解雇である状況のため、これがフェアプロセスであったのか疑問が残ります。加えて、髪の色について、赤はOK、緑はNGのような細かい規定を設けている会社はほとんどないと思いますので、単に雇用主の主観で緑色が相応しくないから解雇というのは、即日解雇の理由としては不適切である可能性が高いです。実際に、髪を青に染めたスーパーマーケットのパートタイム店員が容姿が原因で解雇されるケースがありました。結果、雇用主のフェアプロセスが不適切だったことが雇用調停所で明らかになり、約$10,000の慰謝料等を従業員へ支払う決定が下されています。

最後に、質問者様の対応として、ご自身もしくは弁護士などの代理人が、即日解雇の通知を受けた日から起算して90日以内に解雇が不当であったという内容の書面(メールなど)を雇用主へ送ることで、まずは今回のクレームを法的な土台にのせることができます。