第2回 夫婦間での個別財産と親からの借金 ~ Separation Property と Deed of Acknowledgement of Debt について~
前回結婚前に起こりうる財産の取り決めPrenuptial Agreementについてお話しました。
今回は結婚後にあなたに起こりうる財産上の大きな出来事について記します。よく出合うのは次のふたつではないかと思われます。ひとつは不幸にしてあなたの祖父母もしくは両親のどちらかが亡くなり、まとまった財産をあなたが相続するケースです。そしてもうひとつは子供も出来たしそろそろ家でも購入しようか思うのですが、デポジットにするお金がない、もしくは購入したい気持ちはあるが、購入するためのお金そのものがないと言う場合です。ここでよく登場するのが「遠くにいる孫や娘のためなら金をだしてやろう」と言うやさしいお父様、お母様です。まさにラッキーユーです!でも結婚しているあなたがこれらのお金をいつまでも自分のものにしておく事は出来るのでしょうか?万一離婚と言う局面に遭遇してもこの財産は守れるでしょうか?
相続財産の管理
あなたの相続財産はその出発点としては夫婦のものでなく、間違いなくあなた自身のものです。法律では夫婦の共有財産をRelationship Propertyと呼び、結婚していても夫だけの財産やあなただけの財産をSeparate propertyと呼びます。ここで気をつけなければならないのはSeparate propertyはいつまでもSeparate propertyでないかも知れないと言う事です。たとえばあなたが日本で貯めた貯金(Separate property)をいくらか使って、家族で使う車を買ったり家のリフォームに使ったとすると、この使ったお金はRelationship Propertyに「変身」してしまいます。すなわち将来不幸にして離婚と言うことになれば半分に分ける対象になると言う事です。 Relationship Propertyと Separate propertyの関係はとても微妙で、事実に即して判断されるので一般論では説明しきれません。裁判になったケ-スからたくさんの判例が生まれ、これが積み上げられて「法律」が出来ています。したがってもしあなたがSeparate propertyを所有していて当分はこれを自分のものにしておきたいと考えるならば、上記の簡単な例に頼ることなく、専門家のアドバイスを受ける事をお勧めします。あえて専門家と言いましたのは弁護士なら誰でもと言う訳でなく、家庭法に通じている弁護士である必要があるからです。
親からの借金
前回のPrenuptial Agreement(結婚前に交わす契約書)の中で次の様に述べました。「結婚財産について定めたニュージーランドの法律Property (Relationships) Act 1976では、たとえば結婚前に夫が所有していた家であっても結婚後一緒に住んで3年以上経った後に、離婚となりますと基本的には半分ずつの財産に分けるとしています。」 これはもちろんあなたにも適用されます。あなたが両親から“もらったお金”を家の購入にあてるとこのお金は法律上Separate propertyからRelationship Propertyに姿を変えます。 私の経験ではこのお金が法律的にどの様な意味合いを持つお金かについてかなりあいまいなケースが多いです。親自身贈与なのか貸しただけなのかはっきり認識されていない場合が多々あります。たいていの場合初めは貸していると言う認識で、娘が親を大事にしない様な事があれば返してもらうが、かと言っていつか必ず返してもらおうと考えている訳でもない。かわいい孫と娘のために差し出したお金なので、その内に自分が亡くなれば娘がそのまま所有すればよいといった感じです。したがってお金の性格を明記した覚書などもなく、あいまいなままに時間が経っていきます。 そして離婚と言う事態になった時に、親たちはそのお金の半分が「憎っくき夫」に行くかもしれないとなってあわてるのです。 「あのお金は貸したのであってあげたのではない。」と主張することになるのですが、あげたのか貸しただけなのかを証明する証拠がないので揉めることになります。 これを避けるためにはお金を差し出した時点で、家を買うために夫婦二人に貸したと言う借用書を作っておく事です。Deed of Acknowledgement of Debt(借金確認書)と言う名の法律文書です。夫婦で借りたお金を家につぎ込んでも、もともと二人のお金ではないのでRelationship Propertyにはなり得ません。モーゲージで銀行から借りたお金を家につぎ込んでも二人のものにならないのと同じです。Deed of Acknowledgement of Debtも正式文書とするためにいくつかの要求される形式がありますので、やはり専門家のアドバイスの元で作られる事をお勧め致します。 もうひとつ大切なアドバイスはこれらの手続きをあなた自身の手で進める事です。ある時キーウィハズバンドから電話が入りました。「家購入にあたって家内(日本人)の親が出してくれると言うのだが、どの様に手続きすればよいか?」と。弁護士はConflict of Interest (権利の葛藤もしくは利害対立)と言ってお金の貸し手と借り手のお手伝いを同時にする事は出来ません。クライアントのためにベストのアドバイスをするのが弁護士の義務ですが、借り手にとってベストのアドバイスは貸し手にとってベストアドバイスとならないためです。そこで「日本にいる両親の立場でお手伝いするのが適切と考えますので、両親から私に電話してもらって下さい。」と伝えましたが、その後電話はありませんでした。両親が面倒と考えたからか、キーウィハズバンドが伝えなかったからなのかは定かではありませんが。 この原稿はオークランド日本人会会報2009年10月号に掲載しました。