概要
ニュージーランドの雇用問題を扱う機関として、Employment Relations Authority(ERA:雇用裁判所へ行く前の調停機関)があります。このERAの判断にニュージーランドにおける解雇の問題や雇用対策法(雇用法)の概念であるGood Faith(信頼、信用)が反映されていると思います。本稿ではERAにおける判例を幾つか紹介します。
「ニュージーランドでのビジネスに関する法律問題(2)」で、解雇の問題を取り上げました。その中でEmployment Relations Authority(ERA:雇用裁判所へ行く前の調停機関)の判断に、ニュージーランドにおける解雇の問題や雇用対策法(雇用法)の概念であるGood Faith(信頼、信用)が反映されていると思い、本稿ではERAにおける判例を幾つか紹介します。
判例1
園芸店の従業員Aに対し、客や他の従業員から態度や仕事ぶりに対する苦情があり、Aは会社を解雇されました。ディレクターのBは有害な態度(destructive behaviour)、他の従業員や客に対する乱暴な言葉(swear)、商品に対する損害などがあったと主張します。従業員の一人からは、Aから汚い言葉を浴びせられ「祖国へ帰れ」とののしられたとの訴えがありました。
ディレクターBは解雇前、数回にわたり口頭で警告したと主張しますが、ERAはこれらを警告には至らないと判断しました。
Aによると「ある日、倉庫でディレクターBに話し掛けられ、その場で解雇された。ディレクターBは酒気を帯びており、大声を上げていたので怖かった」と話しています。
これに対してERAは、Aの行為は重大な違法行為(serious misconduct)には当たらず、当該苦情について会社はAに弁明機会を与えなかったとして、Aには4,000ニュージーランド(NZ)ドルの損害賠償を求める権利があると判断しました。しかし苦情の内容から、結果としてその額は2,000NZドルに減額されました。
判例2
たばこ工場に長年勤めた工場長Cが部下に対していじめや脅しがあったとする訴えがあり、会社はこれを重大な違法行為と見なしてCを解雇しました。ある部下は怖くてCの機嫌が悪いときは見えない所に隠れたり、また他の部下は会社へ行くのが怖かったと証言しています。
初めの苦情は2月にあり、Cが一時的な停職処分を受けたのは翌年の3月18日、その後3月31日に懲戒尋問(disciplinary hearing)、翌4月初めに調停(mediation)、4月12日の会議でマネジャーによって解雇が決定されましたが、この最後の会議でCは自身の行動を謝罪し、今後態度を改める約束をしたとのことです。
ERAの判断は28日以内にCの職場復帰と彼の気持ちを害したことへの賠償として会社に5,000NZドルの支払いを命じました。その理由として会社側のCに対する十分な調査がなされておらず、Cへの説明や言い分を誠実に(genuinely)考慮したとはいえないとし、Cが不当な扱いを受けたと判断しました。
上記の判断理由について、ERAは会社の調査不備を幾つか述べています。
1.調査をもっと早くに始めるべきであった。
2.「労働環境が怖かった」という苦情は詳細さを欠いておりCが正当に返答することは難しかった。
3.会社の人事部(human resources department)と苦情対応の進め方について相談しなかった。
判例3
Dは自分の上長ともめ事があったときに「おまえがどこに住んでいるか知っているぞ」と言い、その数カ月後にも同じ上長を罵倒したため、20年勤めた会社を解雇されました。
解雇前に持たれた工場長とのミーティングでDは「言われた通りのことをするので仕事に戻りたい」と述べ「私が言ったことは悪意や害を与えようとしたのではない」というわび状を送りましたがDは解雇になりました。 しかし、もめ事を目撃したというDの同僚4人は、署名書類を証拠として提出し、その中で同僚たちは「われわれは深刻な問題とは捉えておらず、みんなDの発言を笑っていた」としています。
ERAは同僚4人のうち2人をERAの審議に呼び出しましたが、そのうちの1人は出来事があったときに外でたばこを吸っていて、現場にいなかったことが判明しました。
ERAの審議員の一人は「以前に警告を受けるようなことがなかったら、今回謝罪をしたことで、解雇は免れただろう」とし、さまざまな状況から判断し、解雇は正当であるという結論に達しました。
解雇というのは従業員にとって深刻な問題なので、雇用主としてはこれを決めるまでの手続きが大変重要になります。正当な手続きが取られない限り、正しい結論には至らないということです。従って出来事事態が雇用主から見れば大問題だと思われることでも、正当な手順を踏んで結論を出さないとERAは反対の結論を出すだけでなく、不十分な手続きで結論を出したことに対して損害賠償を命じる可能性もある、ということがいえるかもしれません。