わたしがニュージーランドに移住した本当の理由

絹川友梨

日本人会のみなさま、はじめまして!
わたしは東京生まれ・オークランド在住・日本に(時々)出稼ぎ業の絹川友梨(きぬがわゆり)と申します。11年前にオークランドに移住。キィウィ夫とネコ3匹と暮らしています。仕事は、俳優/演出/ワークショップ講師/翻訳など。東京にオフィスを構えている関係で、ニュージーランドと日本を行き来しながら仕事をしております。 今日は僭越ながら、ニュージーランドに来た「きっかけ」をお話したいと思います。

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大学時代から東京で演劇を続け、ラッキーなことにバブルまっただ中、コマーシャルの仕事なども入ってきて、わたしはなんとか俳優として生活していました。
ちなみに、カルビーポテトチップスのコマーシャル(お正月特別バージョン)で、あの「明石やさんまさん」と共演したこともあります。控え室でお会いした時は、無口で神経質な印象でしたが、カメラが回った途端、TVで見るハイテンションに早変わり。「振り袖姿の私が、さんまさんをハリセンで叩いた後、“カルビー、カルビー”と言いながら踊る」という内容だったのですが、私がハリセンで頭を叩くと、「もっと思いっきりやってええんやで〜」と。さすが、芸人〜!

さてそんな時代も過ぎ、経済に暗い影がおちると、無名の私にはまったく仕事が来なくなりました。「俳優は続けられないかも」と思っていた矢先、あるオーディションの話しが、南半球の小さな国からやってきました。それが映画『Memory and Desire』。ニッキー・カロ監督(代表作『くじらの島の少女』)の処女作で、日本人俳優を探していました。ラッキーなことに、私は主演に選ばれ、ニュージーランドを初めて訪れることに。この体験がわたしの人生を大きく変えていきます。
それまでわたしは「日本の演劇界」にどっぷりと漬かっていました。
そこは泣く子もだまる「男尊女卑」ワールド。女性は宴会では「お酌係」(苦笑)。
先輩には逆らえない「徹底的な上下関係」。生意気な態度だと、舞台で役をもらえません。
わたしは自分を押し殺していました。口答えしないように。生意気と思われないように、、。

一方、ニュージーランドでの撮影。
撮影チームの主体は「女性」。監督が女性だったからかもしれませんが、助監督、衣装、メイクなどはすべて女性スタッフ。きびきびとしなやかに仕事をしています。言いたいことは言うけれど、アグレッシブではない。しかも男性たちはソフトで優しい人が多いではありませんか!撮影そのものは困難でしたが、よい精神状態で行うことができました。
わたしは思いました。「こういう環境で仕事をしていきたい。言いたい事は言いたい。もう自分をおさえて仕事をするのはまっぴら〜!」これが「きっかけ」となり、ニュージーへの移住を決めることになります。
さて移住してからは、友達は雑草だけ。優しくしてくれたのはマオリのおじさん。予想と違って現実寒し。ホームシックで脱獄事件。わたしって鬱?大学院へゴー!などいろいろなことがありました。もしチャンスがあったら、お話させてくださいませ。

最後に、現在のわたしの活動についてお話します。
オークランドでは、来年3月の公演に向けて準備中。「オークランド・フェスティバル」の一環で、オークランド・シアター・カンパニー主催「Dominion Road Stories」の一部を演出します。これはオークランドのチャイナタウンと言われる地区を取材し、舞台化します。舞台と言っても劇場での上演ではなく、「街そのもの」が舞台。つまりお客さんは街を歩きながら、演劇体験をします。まだ詳細は企業秘密ですので(苦笑)言えませんが、とてもユニークな演劇体験になると思います。ぜひご参加ください。
また来年8月には、野田秀樹作「赤鬼」をQシアター(オークランド/クィーンズストリート) で上演できることになりました!ここでは、できるだけアジア人の俳優を起用したいと思っています。ニュージーランドでは、アジア人の役柄がすごく少ないため、俳優たちはなかなか仕事を得ることができません。仕事が無いのでスキルも伸びない。スキルが伸びないから、仕事はもっと来ない。悪循環です。なんとかアジア人俳優がもっと活躍できる場を提供できればと思っています。(どうぞ、応援してください!)
もしかしたら、皆さんの中には「劇場には行ったことがない」という方もいらっしゃるかもしれませんね。「劇場は今を映すカガミ」です。オークランドの本当の「息づかい」を感じたいならば、劇場はおススメです。エキサイティングなナイトアウトになること間違いなしです。勇気をもっておいでくださいませ!kinu2

今後の夢は、ニュージーランドに社会貢献活動すること。
現在わたしは、日本で即興演劇(インプロ)を使って,学校機関・大手企業・福祉関係施設など幅広い方々を対象に、コミュニケーションスキルをアップしたり、表現力をつけたりする研修やワークショップを行っています。このようなワークショップをニュージーランドでもできたらなと。特に移民してきた人たちは孤立することも多く、友達もなかなかできないため、鬱になる人も多いと聞きました。そういう人たちの助けになるように、楽しく、誰でも参加できて、仲間がつくれる会ができたらいいなと思っています。もしどなたかアイデアがおありでしたら、どうぞお気軽にご一報いただけると幸いです。
みなさんと、オークランドのどこかでお会いできることを楽しみにしております。
拝読ありがとうござました。

そうそう、フリーペーパー「Eキューブ」10月号に、わたしのインタビュー記事がございますので、そちらもご覧いただければと存じます。
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絹川友梨さんのプロフィール
俳優(専門:インプロヴィゼーション)/演出/ワークショップ講師/翻訳家
オークランド大学大学院修士課程修了(主席)。インプロ・ワークス株式会社代表取締役。玉川大学非常勤講師。ニュージーランドと日本を拠点に即興演劇(インプロ)をキーワードに活動している。ニュージーランドでの劇団名はNeko Theatre Company。外国人ベストパフォーマー賞・国際ストックフォルム映画祭主演女優賞受賞。
著書:「インプロ・ゲーム」(晩成書房)/「気持ちが伝わる声の出し方」(角川書店)
翻訳:「ザ・オーディション」/「俳優のためのハンドブック」(フィルムアート社)
http://www.impro-works.com