婚姻に関わる契約 第3回

第3回 離婚に向けての契約書 ~ Separation Agreement について~

今までの2回で結婚前に起こりうる財産の取り決めと結婚中に起こりうる財産問題についてお話しました。今回は不幸にしてセパレーション(事実上の離婚)が現実の問題となった時の財産問題について記します。

セパレーション(Separation)

セパレーションとはその言葉の通り分かれて住み始める事を言います。ニュージーランドではセパレーションから2年後に離婚(Resolution of marriage)を裁判所に申請する事が出来ます。日本の制度と大きく異なるのは一方が離れたときにセパレーションが起こったとみなされ、その後裁判所が離婚を認めるただ一つの条件は2年間の別居があったと言う事実だけです。すなわちセパレーションに至った原因はどちらにあるかは問われないと言う事です。 この記事では結婚を軸に財産問題を取り扱っていますので、あえて話を広げる事はしませんが、ニュージーランドではde facto (事実上の結婚、同棲関係)や同じ性同士の同性婚(Civil Union)でも一定期間一緒に生活していますと基本的に同じルールが適用されます。

Separation Agreement の内容

Separation Agreementは離婚を待つことなく、その名の通りセパレーション(別居)が起こった時点から話合われます。このアグリーメントの中で確認、同意が求められるのは通常子供の世話や接見そして財産分けについてです。したがって子供がいなくて二人の財産もまだそれほどないカップルにとってはどうしても必要なアグリーメントと言う訳ではありませんが、”損しない”ためには法律的にどう言った権利があるかを知っておく事は大切だと思われます。

前回の記事で法律では夫婦の共有財産をRelationship Propertyと呼び、結婚していても夫だけの財産やあなただけの財産をSeparate propertyと呼ぶことはお話しました。

Separation Agreementで分け方が確認されるのは基本的に共有財産であるRelationship Propertyだけです。ただし離婚を念頭においた財産管理のもとで結婚生活を送っている方はあまりいないと思われますので、Separate propertyも複雑に入り混じっている事がしばしばあります。すなわち制定法だけを根拠に“これはRelationship PropertyであれはSeparate property”とはっきり決められないと言う事です。ここに法律の解釈の問題が入っていきます。心情的にもうまくいっていない時期ですから、なおさら事が難しくなります。

正式法律文書

この契約書も、Pre-nuptial Agreement (第一回目でご紹介した結婚前に交わす契約書)と同様に、正式法律文書であるためにはそれぞれが自分の弁護士を必ずたてなければなりません。そして自分の弁護士から契約書の内容についてしっかりと説明を受け、十分に理解した上でサインしたと明記されている必要があります。そして契約書の中味をクライアントにきっちりと説明したことを示す自分の弁護士の宣誓があって、正式法律文書となります。「私たちが取り決めた内容を契約書にしてくれれば、二人ともサインします。」と言って来られたご夫婦もいましたが、これでは正式法律文書にならないと言う事です。

実際的な問題

財産問題に限って言えば、セパレーションに至った事実を早く受け入れ、財産分けの大まかな合意をお互いの話し合いで取り付け、その後に法律的にどの様な権利が自分にはあるか弁護士からアドバイスを受けるのがベストかと思われます。これは時間の節約がコストの節約につながると共に、ストレスも少なくて済むからです。

しかしながら取り付けた合意と弁護士から知らされた自分の権利に大きな開きがある場合は、やはりすんなりとは収まらない様です。相談にこられた時は「セパレーションにはなったが今でもそれなりのいい関係は保っている」と言っていたのに、財産分けの話が進むにつれて険悪な関係になっていったケースは珍しくありません。

驚くことではありませんが、離婚の問題を前にして気持ちが安定していないので自分の望んでいる事が自分自身でも分からず、弁護士に与える指示が頻繁に変わるケースもよくあります。今まではお金などなくても「愛があるから大丈夫なの」と瀬戸の花嫁張りに考えてきたのかもしれませんが、別れるとなれば差し当たり頼りになるのはお金です。情緒的、感情的にならず、ここ一番、冷静に「ニコッと笑って法律的に取れるものはすべて取る」がお勧めのアドバイスです。

この原稿はオークランド日本人会会報2009年12月号に掲載しました。