COVID-19ワクチンと雇用の問題

COVID-19のワクチン接種は、雇用、労働環境での安全性や、プライバシーに問題を投げかけています。

NZでは、雇用者は労働者に対して容易にワクチン接種ができる環境を設けるように下記のように促しています。

雇用主は

  • 労働者は勤務時間内に、有給休暇の消化をしたり減給されることなくワクチン接種ができる
  • ワクチンについての国からの情報を提供する
  • Ministry of Health か a District Health Boardに職場でのワクチン接種を求められた場合、それに従う

以下で、いくつかの質問に答えます。

Q. 雇用者は労働者にワクチン接種を強制できますか?

A. いいえ。国からワクチン接種の命令がされていたりCOVID-19に感染する可能性が高い場合のみ、特別な役割をワクチン接種済の労働者に求めることができますが、このような職種はNZではまれです。

 

Q. ワクチン接種が必要な職種な場合、雇用者はワクチン接種をしていない労働者の労働条件や配置を変更することはできますか?

A. 雇用者は労働条件の変更の前に、労働者がその労働条件の変更(勤務地、時間、職務内容、感染リスクの低いポジションへの異動)に同意できるか話し合わなければいけません。また、労働者が妊娠、健康問題などでワクチン接種が不可能な場合、ワクチン接種を延期して、一時的なの代替手段に同意しなければなりません。

 

Q. もし労働者がワクチン接種を拒否した場合、雇用者は労働者を解雇できますか?

いいえ、解雇は他の解決策がない場合の最終手段です。まず、雇用者はその事業内にワクチン接種者済みの労働者でなければ遂行できない業務があるかどうかをCOVID-19感染・拡散リスクを含め判断します。そして業務の感染リスクが高く国からの接種命令がある場合、雇用者は労働者に対し、法的相談、永久的・一時的な勤務条件の変更、様々な休職種類への同意、事業体系・勤務体系の改革、心身不全による勤務不能の問題等を考慮してから解雇について考える必要があります。法的な解雇手続きと法律家による相談なしに解雇することは、雇用の機関により不当解雇と判断されて結果的に経済的に大きな打撃となり得ます。

 

Q. 雇用者は、労働者のワクチン接種が必要かどうかをどのように調べるのですか?

A. 国からワクチン接種命令が出ていないが、ワクチン接種の必要性が考えられる場合には、まず雇用者と労働者がCOVID-19の感染可能性や感染リスクを最小限に食い止める方法を話し合わなければなりません。もし「労働者が勤務中にCOVID-19に感染する可能性」が高く、なおかつ「他人に感染を拡散する可能性」が高い場合は、その業務はワクチン接種済の者によって遂行される必要性が高いです。

 

Q. ワクチン接種が必要な職種の労働者が接種をしていない場合、雇用者が労働者に年次休暇やその他の休暇の取得を要求することはできますか?

A.  年次休暇やその他の休暇の取得は双方が合意した上のものであり、雇用者が合意なしに強制はできません。もし合意が不可能な場合、まだ年次休暇の残日数があれば、雇用者は労働者に対して最低14日前の書面通達によって年次休暇の取得を要求できます。しかし、もし雇用者が労働者に対して無給休暇の取得を要求した場合は、違法に休職させているとみなされる場合があります。

 

Q. もし労働者にワクチン接種が必要な場合に、労働者がワクチン接種の証明を拒否した場合はどうすればいいですか?

A. まず、ワクチン接種するのに障害となり得ることを排除することを考えます(勤務時間外にワクチン接種するのが難しい場合等)。もし国からワクチン接種を命令されているのに、労働者が接種を拒否したり、接種の証明を拒否した場合は、その労働者はワクチン未接種者とみなされ、雇用者はその労働者に対して彼らの雇用においてそれがどういう意味かを説明する必要があります。

「殺人犯のかつら ―人権の侵害訴訟をめぐってー」後日談

昨年のオークランド日本人会会報冬号に上記のタイトルで書きました記事を覚えていただいていますか?若くして禿げている殺人犯(Phillip John Smith)が「刑務所の係官が私のかつらを奪ったのは私の表現 の自由(freedom of expression)への人権侵害だ」とオークランド高等裁判所へ訴え、彼はこの裁判に勝利しました。ちなみに彼の犯した犯罪は近所に住んでいた少年に何年にもわたって性的いたずらを 続け、これに怒った彼らの父親を殺した殺人犯です。さらにはその後仮釈放された時に変装して海外逃亡を企てました。再び逮捕された時かつらを取り上げられ、禿げ頭の写真が当時の新聞、テレビに出ていました。

後日談

その後刑務所側がthe Court of Appealに上訴していました。the Court of Appealはかつらをつけていたいと言うSmithの願いは表現の自由の権利への行使(engage)ではないと結論し、高等裁判所の判断を破棄しました。その後刑務所側が刑務所内でのかつらをつけることを認めたのでこの権利についての議論はなくなったとしています。

ちなみにどのような考察がこの新しい判決の中でされていたかに興味のある人もいるかと思いますので、その一部を紹介しましょう。曰く、重要な理論的根拠はかつらをつけることがそもそもSmithにとって表現すべき情報内容を含んだ行為と言えるか。この制定法 (New Zealand Bill of Rights Act 1990) における表現の自由は「非言語的象徴的」表現行為 (non-verbal symbolic expression)を含めて広く解釈されるべきだ。確かに髪型が文化的、宗教的もしくは政治的メッセージを伝えると言うこともあり、法の下の表現的行為にあたることもある。(すなわち言葉による主張だけでなく何らかの行為も表現の自由の範囲として捉えられるべきだと言うことです。)しかしながらこれは意見や情報を伝え合う何か (communicative of something) を含んでいなければならない。この意味でかつらをつける行為はSmithが主観的にどう感じるかだけで、誰かに伝えるべき何らかの情報を含んでいないので法律が保証している「表現の自由」の表現にあたらない。

私的な感想

常識的な判決だとは思いますが、これを読んで考えることが二つあります。

一つは一人の納税者として思いです。この裁判にかかる検察や裁判所への費用はもとよりSmithの裁判費用も訴訟経費扶助(legal aid)から支払われている可能性があります。すなわちこの裁判のすべてが税金でまかなわれていると言うことです。我々が支払った税金をもっと有効に使ってほしいと言う素朴な思いが一方にあり、とは言うものの誰かれなく一人の人権が軽く扱かわれればいつかじわじわとみんなの人権がむしばまれることになるという思いが交差します。

もう一つは裁判官には失礼ながら人の判断とはこの程度だと言う思いです。ニュージーランドでは何年もの弁護士経験、主に法廷弁護士の経験を経て裁判官になれる制度ですので、裁判官は常識を持ったとても聡明な(intelligent)方々です。ちなみに常識を持ったという言い方をしましたが、これは何かもしくはどこかの国と比べている訳はありません。弁護士であったときに常識がなかったとすればクライアントが来ませんので、弁護士であり続けることが出来なかったはずと言う程度の意味です。ともあれこのような素晴らしい見識を持つ裁判官でも同じケースに全く異なる判断を下す事実は知っておく価値があると思います。

弁護士の仕事で訴訟に関するケースで出くわしますと「このケースは勝てそうですか」とクライアントからよく聞かれます。正直な答えは「やってみないと分からない」です。「これじゃ答えになっていない」「頼りない弁護士」と思われるのはよく承知しますが、明らかに勝てそうなもしくは負けそうなケースは裁判に上がってきません。負けそうな側が裁判を回避しようと和解を呼び掛けてくるからです。これに対して観点によって双方に言い分があるときは、裁判に進むことになりますが、担当する裁判官によってどちらの言い分に重きをおくかが異なり結果が変わってくると言うことかと理解しています。

新たな裁判

上訴を経てこの裁判は終わりましたが、今年になってこのSmithともう一人の「悪名高き」受刑者Arthur Taylorが起こした新たな裁判がニュースになっていました。刑務所で209人の受刑者を対象に行われた身体所持品検査(strip-search)についての訴訟です。彼らによればこの身体所持品検査は2016年10月に刑務所内で起こった冷酷な襲撃への報復として行われた。報道によりますと6人の監視員が怪我をし、3人が刺し傷を負ったそうです。

SmithとTaylorはオークランド高等裁判所で次のように弁論したそうです。「体中を調べられ多大なる屈辱を与えられた。」「見くびられ、人間性を奪われたと感じた。」「すべての受刑者への謝罪と一人当たり600ドルの賠償をせよ。」「刑務所は見本を示すことによって受刑者を更生させることに責任がある。」「すべての人の権利を尊重する例を示すことで、他者の権利への尊重を徐々に教えていくことが刑務所にとってとても重要なことだ。」

さて皆さんが裁判官ならこの裁判にどんな判決を下し、どんな判決理由を述べられるでしょうか?

殺人犯のかつら ― 人権の侵害訴訟をめぐって

殺人犯とは正当な理由なしに人を殺した者のことを言い、裁判でその罪が確定した人と言うことは誰でも知っています。ニュージーランドでは死刑が廃止されていますので、基本を無期懲役として仮釈放の申請が許されるまでの期間が通常判決時に言い渡されます。仮釈放の申請をすれば必ず許可される訳ではなく、一定の基準を満たさなかったとして却下されることももちろんあります。却下されると次の申請までに一年は待たねばなりません。

したがって犯罪者が監獄に一定期間閉じ込められることになるということも周知の事実です。この一定期間行動の自由が奪われるという事実をもって犯罪者の基本的人権が侵害されていると主張する人はいないと思います。これは犯した罪に対する罰であり、報いであると考えられるためです。

では若くして禿げている殺人犯が「刑務所の係官が私のかつらを奪ったのは私の表現の自由(freedom of expression)への人権侵害だ」と訴えたら、この正当性はどう裁かれるでしょうか?この裁判が3月に本人(Phillip Smith)である殺人犯によって実際にオークランド高等裁判所へ持ち込まれました。かつらを取り上げた刑務所を訴えたのです。そしてこの結果(判決)、なんと彼がこの裁判に勝利しました。

Phillip Smithの犯罪歴

まずこの確定殺人犯はどんなことをしたのNZ Heraldからひろってみます。Phillipは1974年にWellingtonに生まれました。3歳のときに両親は離婚し、彼のお母さんはCartertonへ移り、彼はお母さんに付いていきました。その後お母さんが再婚しSmithの姓に変わりました。

1980年後半に彼が住んでいるCartertonの同じ通りに小さな子どものいる夫婦が移ってきました。Smithと少年たちは親しくなり、彼は両親からbig brotherと見なされていたと言います。ところが1995年9月に子どもたちは彼から性的ないたずらを過去3年間に渡って受け続けていたことを両親に告白します。「誰かに言えば家族を殺す」と脅かされていたので、子どもたちが受けた被害は文字にするのがはばかれるような内容でしたが長く沈黙を守っていました。

これを聞いて驚いた両親は直ぐに警察に連絡し、Smithから逃れるために夜逃げのようにしてWellingtonへ引越しました。彼はその後直ぐに逮捕、起訴されました。

当初は彼が被害者と接触することを心配して仮釈放が認められませんでした。なぜなら彼の部屋から被害者の家族が逃げたWellington郊外にある学校のリストが見つかったためです。

彼はこの時点ですでに20に及ぶ有罪判決がありました。その中には裁判への証人を火炎びんで脅かして公正な裁判を妨げた罪などがありましたが、高等裁判所に再審を求めて上訴し仮釈放が認められました。

その2週間後にはAucklandの男性への恐喝で逮捕、起訴され再び収監されました。脅かされた男は後に自殺を図ったと言います。この訴訟中に警察から逃げ出し、再び逮捕され、再度仮釈放を認められました。被害者である13歳の男の子と接触をしない、家族の居場所を探そうとしないがこの仮釈放の条件でした。

このような仮釈放条件をSmithは全く無視して、1995年12月11日に被害者家族の住む新しい家に向かいました。ナイフやライフル銃を持って裏庭から忍び寄り、そこで3時間待ちました。これらの武器は1週間前にこの家の近くに隠していたと言います。

被害者である13歳の男の子が彼の部屋にいるSmithに気づき目覚めるやいなや、両親を叫んで呼びました。急いで駆けつけて来た父親をSmithは繰り返しナイフで刺しました。この少年は逃げ出し、近くの警察に助けを求めました。この時Smithは少年の母親と兄弟に銃をつきつけて死にかけている夫へ近づかせないようにしていました。ホラー映画に見るような執拗さではないでしょうか?

その後すぐに逮捕されたSmithは殺人罪で起訴されました。この裁判の中で彼の部屋から殺人への詳細な計画書が見つけられたことが明らかにされました。

長きに渡る少年への性的虐待と彼らの父親の殺人に対する有罪判決をもってしてもSmithはこの家族を苦しめることをやめませんでした。彼は刑務所の中からこの家族に4回も脅しの電話を入れています。彼の独房を捜査した警察はこの家族の名前が記されたhit list(暗殺もしくは攻撃者のリスト)を見つけています。

その後2014年11月にSmithは一時的に釈放されました。この時彼はかつらなどを使って変装しブラジルまで逃亡しています。ちなみに彼が問題にしているかつらはこの逃亡の時に使ったかつらで、以後愛用していたようです。

Smithがどんなことをしてきて、どのような人格かをある程度知った上でこの「かつらはく奪人権侵害裁判」を考えるのが良いかと思い、長いと分かりながら記させてもらいました。

裁判では何が争われたか

さてこのかつらはく奪人権侵害裁判ではSmithが何を訴え、どのような内容が争われたのでしょうか?彼は裁判官に訴えました。「逃亡の後に刑務所に戻った時が私の人生で最悪の時だった。」その理由は逃亡という情けない行為をしたからでも再び捕まったからでもありません。曰く、「なぜならかつらを取られ、禿げのままの自分の写真が新聞の一面に載ったからだ。私は見くびられ、面目を失わされ、屈辱を受けた。」

「もっと恥と思わなければならないことがいっぱい他にあるんじゃないですか?」と突っ込みたくなるコメントですが、Smithは20代から髪の毛が薄くなり始めたので、かつら無しでは人前に出れなかったと言います。にもかかわらず刑務所はなぜ彼がかつらをつけてはいけないのかについて合法的な理由を明らかにせず、これを正当化するために警備上の懸念をおおげさに主張した。木の実をハンマーで叩き割るようなものだ。結果として彼を人間的尊厳をもって扱うことをしなかった。

これに対し刑務所側の弁護士は「刑務所の判断は運営上の問題で裁判所が干渉を控えるべきだ」と述べましたが、裁判官は違った見解を示しました。刑務所はThe Bill of Rights Act (ニュージーランドにおける人権を定めた法律)のもとに保障されているSmithの人権に対する配慮に欠けたと判断しました。先ほども述べましたが、基本的人権である表現の自由(freedom of expression)が侵害されたということです。しかしながらSmithが要求していた賠償は退けられました。

判決への反応

まず一般の反応は「殺人犯のかつらを取ったくらいで、何が人権侵害か」ではないでしょうか?事実、この判決に怒った国会議員の一人は彼のFacebookで「このような男には何の権利もない。刑務所の誰かに頭皮を剝がれればいいんだ。」と扇動的なコメントを載せ、後にすぐに取り下げています。

言うまでもないことですが、殺人犯がいると言うことは殺された人がいるということで、殺人犯はこの被害者の最大の人権である生きる権利を奪った者のことです。The Bill of Rights Actを否定する人はいないと思いますが、この法律が被害者より加害者の権利を守っているのではないかとはこの法律の当初から繰り返されてきた議論ではありました。

この裁判で審議されている争点を「Smithのかつらを取り上げなければ、刑務所の運営上問題があるか」と規定すると、必ずしもそうとは言えないという結論になるかもしれません。一方で子供への性的虐待、殺人、逃亡など数々の重罪を重ねておいて、そんな人間がかつらを取られたぐらいで騒ぐなが一般的な受け止め方ではないでしょうか。

「歎異抄」の有名な一節に「善人なおもて往生を遂ぐ、いわんや悪人をや。」がありますが、善人は言うまでもなくどんな悪人だってその人権が守られる素晴らしい人権国家二ュージーランドという事になるのでしょうか。

『オークランド日本人会2017年冬号に記載』

日本弁護士連合会 NZ訪問

2015年8月23~25日、日本弁護士連合会より、藤原精吾弁護士、小池振一朗弁護士、近藤剛弁護士、新倉修弁護士の4名がニュージーランドを視察されました。

滞在中、当オフィス西村純一とともに、首都ウェリントンにてHuman Rights Commission、Office of the Ombusmanを訪問し、代表者と面談の機会を持ちました。

人権委員会で
人権委員会で
オンブズマンで
オンブズマンで
クリスらと大学で
クリスらと大学で

難民について考える

* * * この記事の筆者、直江さんは東京都出身で慶応大学で政治学を学び、カリフォルニアのサンディエゴ州立大学で政治学修士号を取得された後、外務省の外郭団体でベトナムのボート・ピープルの定住促進支援活動に従事されていました。その後、国連難民高等弁務官事務所で緒方貞子女史のもと13年間勤務され、ジュネーブ本部だけでなく、マレーシア、スーダン、バングラデッシュなどでも難民の支援をされていました。 続きを読む