判例から学ぶ!NZ法律案内 第6回

第6回 契約義務の不履行

今回は契約に関係したRepudiation(リピュディエーション)という法律の考え方についてお話します。これは、契約義務を果たさなければならない期日前に、その実行を違法に拒絶することです。あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、日本人が犯しやすい過ちの一つでもあるのです。

(Quarter 2003年冬号より)

契約違反に対抗する2つの方法

家を売買する契約書に正式にサインした後、正当な理由なしに買い手側が家の明け渡し日が来ても支払いを拒否する、もしくは明け渡し日の前に売り手が他の人にその家を売ってしまった、といった契約違反がリピュディエーションです。リピュディエーションは、一般に合法的に契約を解除する時に使われる「キャンセル」とは違います。

契約相手の違反が明らかになった時点で、対抗手段は2つあります。一つは契約を「キャンセル」し、その時点で損害があれば損害賠償を請求するという方法。もう一つは契約を「追認(affirm)」して、その時点で損害があれば、損害賠償を請求する方法です。契約条件によっては、キャンセルすることが可能でもあえて追認する、ということも考えられます。相手のミスのためにキャンセルしなければならないというのは不合理だと考える場合です。ただ、ここで重要なのは、いったん追認を選択すると後になってキャンセルはできないということ。この点をしっかり念頭に置きながら、次に紹介するオーストラリアのケース(1984年)を分析してみましょう(紙面の都合上、事実関係の一部を割愛しています)。

裁判の意外な結末

TはG建築会社との間で、まだ建築されていないペントハウスを購入する契約を結び、頭金を支払いました。Tは契約の際に、彼の好みに合わせてプライベートな玄関を設けるなど建築上の注文を契約書に添付しました。ところが、Tが希望した建築事項はペントハウスを立てる際の法律に違反していることが後で分かりました。それにもかかわらず、G社はTに知らせないまま法律に添って構造を勝手に変更し、ペントハウスを完成させてしまいました。

完成後に構造が勝手に変更されていたことを知らされたTは、完成したペントハウスが自分の好みではないとして、売りに出しました。しかし当時、不動産の市場価格は下落しつつあり、買い手を見つけることはできませんでした。そこでTは、ペントハウスの構造が変更されていたことを理由に、契約を破棄するとG社に手紙(notice)を出したのです。G社はこれを拒否しましたが、Tはその後も買い取りを拒否し、最終的には裁判に持ち込まれました。

このケースは結局、次のような結末を迎えました。Tではなく、G社が契約を合法的にキャンセルし、当時の市場価格、つまり当初の予定よりも安い金額で別の人にペントハウスを売却し、その差額(損害分)をTに請求し、これが裁判所に認められたのです。さて、G社の違反が事の発端なのに、なぜTが損害賠償を支払わなければならなくなったのかを、契約の法律に基づいて解説してみましょう。

G社がTに構造の変更を知らせることなくペントハウスを完成させたのは、明白な契約違反でした。G社の契約違反が明らかになった時点で、Tには先に述べた2つの対抗手段がありました。ここで重要なポイントは、Tがペントハウスを売りに出した行為が「追認」と見なされたことです。いったん「追認」した後では、「キャンセル」する権利は失われるということはすでに述べました。したがって、TがG社に契約破棄の手紙を送った行為は、キャンセルする権利のない者が契約を破棄しようとしたことになり、Tのリピュディエーションになるわけです。そこで今度はG社が、これに対抗してキャンセルを選択して損害賠償を求め、それが認められたというわけなのです。

法律は、契約違反があればそれに対抗して取るべき手順を定めています。誤解を恐れず要約すれば、相手に契約違反があったからといって何をしてもいいとはならないばかりか、対抗するために取った行為によっては、あなたが契約違反を問われることもあり得ますので、十分な注意が必要です。